高卒から日本一の資産家まで上り詰めた滝崎武光氏。キーエンスを国内トップの大企業へと成長させた成功術は、ビジネスを学ぶ人にとっては正にお手本とも言えるものです。
この記事では、そんな滝崎氏の生い立ちや資産総額を紹介します。伝説とも言える事業家の経歴から成功の秘訣を学びましょう。
滝崎武光氏の年収・総資産
出典:Forbes
アメリカの大手経済紙『フォーブス』の調べでは、滝崎武光氏の2023年の資産総額は226億ドル(約3.2兆円)と推計されています。この数字は国内2位に相当するもので、国内でこれより大きな資産を有する人はファーストリテイリング会長の柳井正氏のみとなっています(柳井氏の資産額は354億ドル)。
滝崎武光氏の年収は10億円前後
滝崎武光氏は過去1年間で資産額を10億ドル(約1,500億円)増加させており、単純な資産額増加幅は1,000億円規模であることがわかります。会社から受け取る年収としての額は不明ですが、一般的に10億円程度ではないかと推計されています。
莫大な資産の1/3以上が自社株とされており、キーエンスの業績が好調なことも資産拡大の理由のひとつでしょう。キーエンスはベンチャー精神あふれるモノづくりと、巧みな顧客管理で右肩上がりの成長を続けています。
好調な事業を背景に資産を築きあげる滝崎氏ですが、自身が会長を務めるキーエンスも平均年収が日本トップクラスなことで知られています。2023年の平均年収は約2,200万円で、これは国内企業2位につける高額給与です。1位のM&Aキャピタルパートナーズ(約2,600万円)と比べても遜色ありません。
注目なのが増加額で、2021年からなんと500万円近く年収がアップしています。滝崎武光氏の経営手腕は言わずもがなで、積極的な海外進出(会社事業の50%が海外市場向け)が功を奏した結果と言えます。参考までに、滝崎武光氏と他の実業家の年収と資産額をまとめまてみました。
資産額ランキング
順位 |
名前 |
総資産額 |
1 |
柳井正(ユニクロ代表取締役) |
4兆9700億円 |
2 |
滝崎武光 (キーエンス名誉会長) |
3兆1700億円 |
3 |
孫正義(ソフトバンク取締役会長) |
2兆9400億円 |
4 |
佐治信忠(サントリーホールディングス代表取締役会長) |
1兆4500億円 |
5 |
高原豪久(ユニ・チャーム代表取締役社長) |
1兆530億円 |
資産額ランキングの上位は、孫正義や柳井正などの大物事業家でひしめき合う結果となりました。滝崎武光氏は2位につけており、知名度の低さにも関わらず首位を射程圏内に納めています。その他の事業家が頻繁にテレビ出演を行なっているのに対し、滝崎武光氏はマスコミへの露出を極端に嫌っているのも印象的です。
年収ランキング
順位 | 名前 | 年収 |
1 | 慎ジュンホ(Zホールディングス取締役) | 48億6700万円 |
2 | ジョセフ・マイケル・デピント(セブン&アイ・ホールディングス取締役) | 37億8700万円 |
3 | 田憲一郎(ソニー代表取締役会長) | 20億8400万円 |
・・・ | ・・・ | ・・・ |
10 | 出澤剛(Zホールディングス社長) | 12億37000万円 |
11? | 滝崎武光 (キーエンス名誉会長) | 10億円? |
12 | 豊田章男(トヨタ自動車社長) | 9億9900万円 |
推定10億円とされる滝崎武光氏の年収ですが、『東洋経済』の役員報酬ランキングに滝崎氏の名前が現れることはありませんでした。これは後述の生い立ちを含め、滝崎武光氏に関する公の情報が極端に少ないことに依ります。
推定年収をランキングに適用すると、滝崎武光氏はあとちょっとでトップ10入りの11位に着けることとなります。金額上はトヨタ自動車の豊田章男氏よりもやや多く、Zホールディングス社長の出澤剛氏の次に高いという結果になりました。
滝崎武光氏の生い立ち、経歴
滝崎武光氏の生い立ちと経歴を、年表で確認してみましょう。
- 1945年・・・兵庫県に生まれる
- 1964年・・・兵庫県立尼崎工業高校卒業
- 1970年・・・初の会社設立
- 1972年・・・リード電機(キーエンスの前身会社)設立
- 1974年・・・リード電機を株式会社化
- 1986年・・・リード電機からキーエンスに名称変更(Key of Scienceが由来)
- 2000年・・・キーエンス会長に就任
滝崎武光氏の母校「兵庫県立尼崎工業高等学校」(Bakkai, CC BY 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/3.0>, via Wikimedia Commons)
生誕地の兵庫県は商人の地としても知られており、滝崎武光氏も24歳の若さで初めての会社を設立しています。滝崎武光氏の最終学歴は「高卒」で、母校も決して進学校ではありません(偏差値は45前後)。生まれつきの商才と野心の大きさが会社の成功につながったようです。
学歴
前述のとおり、滝崎武光氏の学歴は高卒です。MBA資格などを持っているわけではなく、独学で身につけた知識と経験を頼りに会社経営を可能にしています。滝崎武光氏の生い立ちには不明なところが多く、学歴についても卒業校以外はほとんど公にされていません。
1972年-リード電機
リード電機はキーエンスの前身にあたる会社で、滝崎武光氏が1972年に設立したものです。転機は1974年の磁気センサー開発で、トヨタ自動車への売り込みにより安定した収益を上げることに成功しました。その後も順調に成長を続け、1981年には本社を大阪に移転、1987年の社名変更までに業界を代表する大企業へと変貌を遂げました。
1986年-キーエンス
社名変更後も勢いは止まらず、1年後には任天堂を追い抜いて「株価日本一」の座を勝ち取ります。当時の株価は8340円。現在の株価は57,310円に達しています。2008年のリーマンショックを除き、現在まで売上高は右肩成長を続けてきました。
現在は時価総額が約14兆円に達しており、その勢いに衰えは見えません。海外事業が好調なことが原因とされており、滝崎武光氏の生い立ちや経歴を反映した攻めの姿勢が功を奏しているようです。
2000年-会長就任
キーエンスを国内第4位の大企業まで成長させた滝崎武光氏ですが、2000年からは代表取締役会長を、2015年からは取締役名誉会長を務めています。今年に78歳となった滝崎武光氏ですが、今後は最前線から身を引いて相談役的な役目を果たしていくものと思われます。
滝崎武光氏の成功術
輝かしい経歴を持つ滝崎武光氏ですが、成功の秘訣はどこにあるのでしょうか?「反縦社会」の姿勢を貫きながら、トップダウンではなく社員一人ひとりの個性を生かす方針が実を結んだようです。リード電機時代から一貫した経営方針を貫き続けており、これからセールスイネーブルメントを実行していく人にとって、参考にできることが多いでしょう。
成功術その1:実力至上主義
滝崎武光氏の成功術は「実力至上主義」です。肩書きや部署などにとらわれず、良いアイデアは率先して採用する風土にそのことが反映されています。
また、キーエンス内では「〇〇長」の代わりに「〇〇責」という肩書きが使われています。これは「責任者=偉い人」という固定概念を払拭する試みで、社員間で上下関係が築かれるのを防ぐ効果があると言われています。
成功術その2:合理性の追求
滝崎武光氏は「合理性」を何よりも優先すると言われており、効果が高いと思われる施策は積極的に施行するという姿勢を貫いています。業界の慣行に捉われない自由な発想は、変化の激しいエレクトロニクス市場で勝ち残るのに不可欠だと言えるでしょう。
また、学生時代には学生運動に打ち込んだ過去も持ちます。感情が結果を左右するイデオロギー闘争に嫌気がさしたとも言われており、数字や理論に基づく論理的思考が堅調な利益増加を可能にしたと言えます。
成功術その3:失敗から学ぶ
今でこそ大企業の会長を務める滝崎武光氏ですが、その成功術の陰には度重なる失敗がありました。最初に立ち上げた企業はすぐに倒産し、再び起業に挑戦するも再び挫折。リード電機設立までは、典型的な失敗パターンを繰り返してきたという事実があります。
倒産した会社は電子機器メーカーと組み立ての下請け会社で、のちのキーエンスとはテクノロジーという概念でつながっています。失敗後にまったく新しいことを試すのではなく、蓄積した知識と経験を引き継ぐ姿勢が成功を呼び寄せたと言えるでしょう。
成功術その4:「世界初」の革新的な取り組み
滝崎武光氏は「世界初」とも言えるような前代未聞の事業戦略でも知られています。開発する製品は革新性を最重視し、顧客にも新しさをアピールする戦略が特徴です。
また、「ファブレス経営」と呼ばれる工場なしの運営体制も時代を先取りするものだと言えます。設備負担を減らすことで収支を改善し、研究開発に予算をつぎ込む姿勢はビッグ・テック(アップル、マイクロソフトなどの米国の巨大IT企業群)とも通じるところがあるでしょう。
成功術その5:徹底的な従業員管理
自分に厳しい印象の滝崎武光氏ですが、従業員にも高い自己管理を求めているようです。分単位のワークフォースマネジメントを行なっているとも言われており、従業員管理の徹底ぶりから「ブラック」の噂がささやかれたことさえあります。
実際に滝崎武光氏の元で働く人は、時間管理の厳しさを逆にありがたいと感じているようです。結果が給料に即反映されるキーエンスは、従業員のモチベーションが一際高いことでも知られています。
滝崎武光氏から学べること
異例ずくめと言える滝崎武光氏の経歴ですが、起業の方法を模索しているという人は学べることが多いでしょう。下克上を体現するかのような成功話は、たたき上げの事業家にとって希望の光とも言えます。
また、慎まさが目立つ倹約家としての一面は、道徳面でも一流のリーダーであることを物語っています。高級車を乗り回すこともなく、自己顕示を節して経営に専念する姿勢は、人として尊敬できるものだと言えるでしょう。