2022年ごろより、PEST分析という言葉をよく耳にするようになりました。SWOT分析や3C分析などと並んで語られることの多いPEST分析ですが、その仕組みを理解している人は意外と少ないのではないでしょうか?
この記事では、PEST分析のやり方や具体例をまとめて取り上げます。テンプレートもありますので、事業家の方やビジネスに興味があるという方は参考にしてみてください。
PEST分析とは?
PSET分析とは、ビジネスを取り巻く外的要因を政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの視点から分析する手法のことです。それぞれの英単語の頭文字を取って「PEST」と呼ばれています。
PEST分析の読み方は「ペスト」で、ハーバード大学のフランシス・アギラー教授が1967年に提唱した理論です。機会を活かし、脅威をいち早く取り除くことができるため、ユニクロなどの大企業もPEST分析を用いるところが多いようです。
PEST分析は、SWOT分析や3C分析と比較されることが多々あります。これは、これらの3手法がどれも戦略策定の初期段階で用いられるためです。どの方法がいいかは事業形態にもよりますが、環境の変化が激しいと感じる場合(政治的危機や革新的なイノベーションがある時など)に最適の手法だと言えるでしょう。
PEST分析は、理容業界、IT業界、飲食業界、食品業界、自動車業界など業界を問わずに様々なビジネスで用いられています。マクドナルドやトヨタなどは、マーケティングにPEST分析を使用しているとも言われています。
PEST分析の目的
PEST分析は、ビジネスの基本方針を決定する際に用いられる手法です。戦略策定や施策に先立って行われるため、今後の展望をより詳細に把握する手法としても有効とされています。
PEST分析の目的として挙げられるものには、以下のようなものがあります。
- 環境の変化を予知し、変化に適応する方法を見出す
- 環境に存在するリスクを分析し、撤退すべき市場や事業を特定する
- 新規市場や顧客を特定することで、新しいビジネスモデルを提案する
- ビジネスを客観的に評価することで、改善点や強み・弱みなどを特定する
PEST分析のやり方
PEST分析のやり方は簡単で、4つのステップを順番に実行していく形となります。
ステップ1:外的要因を特定する
最初のステップでは、ビジネスを取り巻く外的要因を特定します。主要4要素(政治、経済、社会、技術)のそれぞれに焦点を当てながら、環境がどのように変化しているかについて考えてみましょう。
SWOT分析や3C分析と同様、PEST分析でも形式的な質問をいくつか用意すると良いでしょう。主な質問内容には、以下のようなものがあります。
政治的要因
- 選挙が実施される予定はあるか?また、選挙の結果がビジネスに影響を与える可能性があるか?
- 政策決定に最も影響力のある人物は誰か?その人の思想や見解がビジネスにどのような影響を与えるか?
- 汚職や組織犯罪の状況はどうか?財産権はどの程度守られているか?
- 審議中の法律や予算がビジネスに影響する可能性はあるか?
経済的要因
- 地域的な経済はどのくらい安定しているか?停滞あるいは成長傾向にあるか?
- 為替レートは安定しているか?
- 顧客の可処分所得の水準はどのように変化しているか?
- 失業率はどうか?売り手市場か買い手市場か?
社会的要因
- 人口統計に目立った変化はあるか?顧客の年齢層に変化は見られるか?
- 社会全体の健康・教育水準はどうか?
- 人々は労働や購買をどのように捉えているか?買い控えを促進するような社会的風潮はあるか?
- 社会的なタブーや活発に議論されている議題はあるか?宗教的な価値観に変化は見られるか?
- SNSマーケティングの対象となると想定されるスマホ所有者の割合は人口のどれくらいか?
技術的要因
- 注目に値するテクノロジーはあるか?また、既存の技術は安定して使用できるか?
- 競合他社が所有または開発するテクノロジーはあるか?それらは市場にどのような影響を与えるか?
- 物流・人流の面で目立った変化はあるか?新しいインフラがこれらに与える影響は?
- 新しく登場した技術は、簡単に学んで応用ができるものか?
ステップ2:機会を特定する
PEST分析で外的要因を特定したら、それぞれの要因がもたらす機会について考えます。例えば、近い将来に新しい技術が利用可能となる場合、新商品の開発の機会はあるかどうかについて考えます。
顧客層に変化が見られる場合、新しい顧客層にどのようなサービスを提供できるかを検討すると良いでしょう。また、得られる機会だけでなく失う機会についても考えてみます。
ステップ3:脅威を特定する
PEST分析の第3段階では、ビジネスを脅かす可能性のある脅威を特定します。例えば、顧客層が変化することで新しい企業が台頭する可能性があるかもしれません。また、新技術が導入されることで、全く新しい企業やサービスが出現する可能性があります。
ステップ4:対抗策を策定する
PEST分析の最終段階では、特定された機会や脅威への対応策を策定します。機会と脅威のそれぞれに注目するのではなく、2つをセットとして考えることが重要です。
例えば、新技術を導入することが得策と考えられる場合、予想される競合他社の動きを念頭に置いた上で計画立てする必要があります。考えられる法規制や顧客層の変化なども考慮して、PEST分析で得られた結果を包括的に検討することが重要です。
具体的な手法を挙げるときりがありませんが、マーケティング戦略で状況を打開するのは、小売業筆頭に数多くの業態の企業が取る手法です。近年、インフルエンサーマーケティングやメールマーケティングなどは、その中のごく一部の例ではありますが、手短に始められるものとして非常に有効です。
PEST分析例
ここでは、PEST分析の例としてアパレル大手のユニクロを対象にした分析結果を紹介します。
政治的要因
- 米中間の貿易摩擦やウクライナ戦争により、貿易規制の影響を受ける可能性がある。
- ユニクロは発展途上国にも進出しており、現地の労働法や規制の影響を受ける可能性がある。
- タイなどの政治的に不安定な国では、運営の継続そのものが不可能となる可能性がある。
- 日本と特定の国々との関係が改善することにより、これまでに進出が不可能とされていた国に店舗を展開できる可能性がある。
経済的要因
- 主要市場である日本の経済は停滞を続けており、衣服に対する消費者支出が減少する可能性がある。
- 中国などの成長市場に参入することで、新たな顧客を獲得できる可能性がある。
- 円安の影響を受け、国内での販売業績が悪化する可能性がある。
社会的要因
- 国際的なブランド力が上昇しており、より多くの顧客を惹きつける可能性がある。
- 日本社会の国際化に伴い、ユニクロの国際的なビジネスモデルが支持を集めている。
- 環境問題に取り組む人が増えているなか、グリーンな取り組みが注目を集めている。
技術的要因
- Eコマースとデジタル関連技術の発達により、オンライン販売やインターネット上のマーケティングに技術的伸び代がある。
- 生成AIの登場により、CRM、カスタマーサポートや接客を大幅に改善できる可能性がある。
- ロボット技術を応用することで、サプライチェーンや在庫の管理がより用意となる可能性がある。
- 繊維技術や衣服の製造プロセスは緩やかながらも発展を続けており、将来的にコスト削減や運営効率の向上に寄与する可能性がある。
上記のPEST分析例から、ユニクロの業績を改善する方法を特定することができます。例えば、経済的要因により苦戦が予想される国内市場では、AIなどの新技術を活用することでシェアを拡大できる可能性があります。
また、決済に仮想通貨を導入するなどの取り組みはオンライン販売を容易にする一方、各国政府による規制の対象となるリスクを内包しています。このように、4つの要素を包括的に分析することで、最も低リスクかつ高リターンの取り組みを特定することが可能です。
PEST分析テンプレート
PEST分析に使えるテンプレートを用意しました。項目に書き込むだけで簡単に使えますので、プリントするかダウンロードしてお使いください。
また、テンプレートは社内で共有するようにすると良いでしょう。ミーティング時に配布資料として使い、他の従業員から意見を募るのも効果的です。
PEST分析まとめ
PEST分析のやり方や事例を紹介しました。簡単に実行できる上、様々なビジネスに応用できる柔軟さが売りの手法です。SWOT分析や3C分析とはまた別角度から企業を評価できますので、2022年を振り返る意味でもPEST分析で現状を見つめてみるのがおすすめです。
導き出された解決法がどれだけ有用かは、分析結果の正確さによると言えます。2030年を見据えてPEST分析を行う場合、手持ちのデータや意見が現状を正確に反映しているかどうかに気を払うようにしましょう。
PEST分析の弱点は、主観的評価が主となる点です。個人による意思決定を成功に導くためにも、偏見や固定観念を持たずに公平な立場から現状を見つめるようにしましょう。
まずは、本文でも紹介した通りに、PEST分析がすでに行われているユニクロなどの大企業の事例で、試してみると良いでしょう。