ビジネスを成功に導くためには、効果的な販売戦略の策定・維持が欠かせません。しかし、実際に商品を売り込む営業担当者をサポートする仕組みがなければ、戦略の履行は困難を伴います。
そこで注目を集めるのがセールスイネーブルメントという概念です。最近ではセミナーが開催されるなど活発に議論されているセールスイネーブルメントですが、その意味や事例を把握している人は多くありません。
この記事では、セールスイネーブルメントを用いて営業成績を改善し、利益を拡大させる方法を紹介します。
セールスイネーブルメント(Sales Enablement)とは?
セールスイネーブルメント(Sales Enablement)とは、営業担当者が効果的に商品を売り込む施策、あるいは活動のことを意味します。それにあたり、セールスイネーブルメントの活動をアシストする、ツールやトレーニングが現在非常に豊富です。一般的には、営業管理や、顧客管理、そしてCRMなどのような経営系の分野にカテゴライズされます。
実用的なアプリやソフトウェアに加えて、Eラーニングやセミナーを通した学習もセールスイネーブルメントに含まれます。
セールスイネーブルメントは、繰り返し行うことで初めて効果を発揮する手法です。そのため、営業チームをサポートするには定期的な戦略の見直しと改善が必要となります。
セールスイネーブルメントの内容、ツール
セールスイネーブルメントは、ツールやセミナーなどの具体的・概念的な取り組みをまとめて定義したものです。ここでは、セールスイネーブルメントを構成する要素を一つひとつ詳細に見ていきます。
コンテンツ
セールスイネーブルメントにおいて最重要とされるのがコンテンツです。コンテンツは商品情報を見込み客に直接提供し、販売を促進するツールとみなすことができます。
口コミ情報と異なり、コンテンツは繰り返し参照できるという利点があります。逆に言えば、低品質のコンテンツは商品やブランドに対するイメージを悪化させる原因になりかねません。
商品の概要を説明するマーケティング資料から、製品仕様をまとめたデータシートまで、販売対象の商品に関する情報すべてがコンテンツに分類されます。
コンテンツは顧客に商品のことを知ってもらうための手段ですが、販売担当者が自身の商品を詳しく把握するために用いることもできます。
セールスイネーブルメントの観点からは、コンテンツは可能な限りシンプルかつ要点を抑えたものである必要があります。
セールストレーニング
新入社員だけでなく、ベテランのセールスマンも定期的にセールストレーニングを受ける必要があります。営業チーム全体が確かな営業力を習得・維持することで、セールスイネーブルメントを業績改善につなげることができます。
セールスイネーブルメントは、効率を再優先事項とする概念です。そのため、トレーニングの提供方法は従来のような対面方式のシミュレーションにとどまりません。
オンラインのチュートリアルや録画済みのレッスンコースを用いることで、都合の良い時間に効率的にトレーニングに取り組むことができます。
営業担当者が過去に直面する問題を扱うことで、将来的なパフォーマンスの改善につなげることができます。そのため、質問に回答するようなトレーニングを用意するのも効果的でしょう。
動画、インフォグラフィック、よくある質問、参考記事などのサポート資料は、商品とその使用事例についての理解を深めるのに役立ちます。また、トレーニングは業界のトレンドを把握する目的で活用することもできます。
セールスイネーブルメント用のツール
セールスイネーブルメントに関する本も出版されていますが、効率的かつ一貫性のある学習にはツールの使用がおすすめです。Salesforceなどのセールスイネーブルメント専用のソフトもありますが、大抵は複数のツールを組み合わせて使用することとなるでしょう。
以下に、セールスイネーブルメントツールとして良く使われるものをまとめました。
- CRMプラットフォーム
- メールマーケティングソフトウェア
- ウェブサイト分析ツール
- 顧客サポートシステム
- ドキュメント管理ソフトウェア
ツールには、Slackなどの企業用コラボレーションプラットフォームも含まれます。こうしたセールスイネーブルメント用のツールは、販売戦略を部門全体で共有し、足並みをそろえて着実に戦略を実行するのに役立ちます。
セールスイネーブルメントのモデル
セールスイネーブルメントには、さまざまなモデルがあります。ビジネスの形態によって適したモデルとそうでないモデルがありますので、それぞれのモデルの特徴を把握することは重要です。
「ハブ・アンド・スポーク」は、最も一般的なモデルのひとつです。これは中心的なチームまたは部門(ハブ)がコンテンツやトレーニング資料の開発を担当するものです。その他のチームや部門(スポーク)はハブが作成した資料を使用して自らの営業担当者をトレーニングします。
「トレーナー養成」モデルは、営業担当者のうち何名かをトレーナーとし育成するモデルです。トレーナーとなった人は、他の営業チームにトレーニングを提供する役割を果たします。
最後のセールスイネーブルメントは「セルフサービス」モデルで、営業担当者が自発的にトレーニングコースとコンテンツ資料にアクセスできるようにするものです。このモデルは、オンラインツールやアクセスの容易なリソースを活用するものが大半です。
どのモデルが最適かを判断するためには、営業チームの規模や構造、製品の複雑さ、セールスイネーブルメントにおける将来設計などの要素を考慮する必要があります。
なお、こういった実行レベルにブレイクダウンする前には、必ず3C分析や4P分析を用いて、客観的にサービスやプロダクトの特徴や弱点を知っておくと、おすすめする際により説得力のあるコミュニケーションが取れます。
セールスイネーブルメントの事例
セールスイネーブルメントの成功事例には、いくつかの共通点があります。そのひとつが社員間での情報交換で、会社全体で方針を共有することにより販売戦略の確実な実施が可能となります。
以下の項目を検討することで、セールスイネーブルメントを収益の増加につなげることができます。
セールス・プレイブックを作成する
セールスイネーブルメントの事例には、セールス・プレイブックを作成して参照できるようにしたというものがあります。
セール・プレイブックとは、販売プロセスを概説したガイドブックのことで、見込み客を特定する方法、リードを判定する方法、取引を成立させる方法などで構成される場合がほとんどです。
セールス・プレイブックの内容は、セールスイネーブルメントのモデルや自社製品・サービスに沿ったものである必要があります。また、新商品の発売時などは更新が必要です。
セールス・プレイブックで解説する項目には、以下のようなものがあります。
- 販売プロセスの変更に関する説明
- 新製品に関する重要事項
- 営業用資料の作成方法
- 販売自動化ツールの使用方法
- 効果的なクロージングテクニック
- 対話中にセールスバトルカードを有効活用する方法
セールスプレイブックは通常、営業マネージャーや部門長などが企業で決められたワークフローに従い、作成を担当します。また、作成された資料をDropboxやGoogle Driveなどのクラウド型ストレージに保存することで、すべての従業員がアクセスできるようになります。
マーケティングチームと連携する
もうひとつのセールスイネーブルメント事例には、マーケティングチームとの連携を図ったというものがあります。営業とマーケティングは密接な関係にあるため、お互いの取り組みに対する相互理解を深めることが重要です。
例えば、マーケティングチームが広告を通して新製品の宣伝に取り組んでいる場合、営業チームは広告を見たという顧客の質問に対応できるようにする必要があります。
購入プロセスに沿った販売計画を立てる
セールスイネーブルメントの事例に共通して言えるのは、消費者の立場から見た販売計画があるということです。顧客が商品を購入する際に通過するプロセスを認識することで、消費者に一貫して商品をアピールすることができます。
購入プロセスには、以下の3段階があります。
- 認識段階・・・顧客が自身の直面する問題やニーズに気づく段階
- 検討段階:顧客が問題やニーズに対する解決策を検討している段階
- 決定段階:顧客が解決策を決定し、商品を購入する準備ができている段階
各段階で異なる営業アプローチを取ることで、確実な購入へとつなげることができます。例えば、検討段階にいる見込み客向けには、自社製品を差別化するようなアプローチが効果的です。
なお、計画を立てた後に、いざ実行しようと思っても、現場でうまく業務が回らない場合は、BPRなどをへて業務を再編成する必要があるでしょう。
セールスイネーブルメントのセミナーを行う
定期的にセールスイネーブルメントのセミナーを行うのも効果的です。セミナーは販売戦略の維持と改善にも効果がありますので、できる限り多くの従業員が参加するように働きかけると良いでしょう。
セールスイネーブルメントの管理者をセミナー担当とするのが理想的ですが、信頼のおける社員に一任するのも良いでしょう。また、各セッションは必ずインタラクティブなものとし、必ず質疑応答の時間を設けるようにしましょう。
セールスイネーブルメントの評価指標を用いる
セールスイネーブルメントの効果を測定するために、以下のような評価指標を用いるのも効果的です。各プロセスにおいて異なる指標を使用すると良いでしょう。
- リードの増加数
- 収益の増加幅
- 販売サイクルの長さ
- 研修用コンテンツの使用頻度
- 取引契約の締結数
- 四半期目標の達成度
このように指標管理をしつつ、OJTで実地経験を積むことで、徐々にセールイネーブルメントにおける要点が掴めてくるでしょう。
セールスイネーブルメントまとめ
業績を営業面から改善するには、セールスイネーブルメントの活用が有効です。Salesforceなどのツールを用いるのも有効ですが、販売戦略の維持と見直しには定期的なセミナーの実施が欠かせません。
また、部門を超えた連携活動を実現することで、各部門が持つ情報や専門知識を最大限に活用することができます。従業員間の分け隔てを無くすためにも、セールスイネーブルメント担当者は先陣に立ってチームを指揮できるようにしましょう。