インターネットでビジネスを始めることがますます簡単になっていますが、実店舗でもECサイトのようなネットビジネスでも重要になるのが顧客満足(CS)です。昨今、これまで以上に顧客満足が重要視されており、多くの企業や事業主がCSの改善に取り組もうとしていますが、何をしたら良いか困っています。
この記事では顧客満足度(CS)とは何かを解説し、顧客満足を向上させるためにできる心がけや過去の良い事例などについて徹底解説していきます。
顧客満足とは?
顧客満足とは、その名の如く自社の製品やサービスに対して顧客が満足している状態のことを指します。また、これを数値化した場合それを顧客満足度と呼ぶことがあります。顧客満足の他にも消費者満足やお客様満足などとも言われますが、顧客の満足度を高めていくことがビジネスを成功させる上でも重要なポイントとなります。
消費者社会が高度化した現代ではサービスや商品の質がよければユーザーが満足するという簡単な話ではなくなってきています。ユーザーは支払ったコストに対してのリターンを期待するわけですが、ここでさらに期待値を超える消費経験ができることで高い顧客満足となります。
顧客満足は英語でCS
最近よく“CS”という言葉を聞くことがあるかもしれません。CSとは英語で“Customer Satisfaction”と書き、日本語に訳すと『顧客満足』という意味になります。
顧客満足の英語版であるCSと似た単語に“CSR”があります。CSRは『企業の社会的責任』の意味で、英語で“Corporate Social Responsibility”と書きます。CSRは企業が取り組む環境活動やボランティア、寄付活動などのことを指し、社会貢献など責任を持って企業が取り組むべきだという考えからCSRが日本でも普及しました。
ただ、本記事で述べる『顧客満足』の意味としての“CS”は、“CSR”とは異なりますので間違えないように気をつけてください。
顧客満足(CS)が大切な理由
日本は世界の中でもサービスの質が高く、一時期は『お客様は神様です』という言葉がサービス業界でも流行ったように顧客へのサービス精神は旺盛なのが特徴です。しかし、現在重要視されている顧客満足とは、過去のようにお客さんを丁重に扱うかどうかというだけの問題ではなくなっています。
顧客満足がこれまで以上に注目されるようになった背景として、ビジネスの安定した収益と成長にはCRM(顧客関係マネジメント)が必要不可欠であるという認識が浸透してきたことにあります。というのも、一回きりの販売やサービスの提供で顧客が途絶えてしまうとビジネスの持続可能な成長ができないため、顧客のリピート率がビジネス成功のカギになります。顧客満足度を高めることができると顧客ロイヤリティ向上にも繋がり、固定客の定着が期待できるため、多くの企業で顧客満足(CS)を重要視しています。
顧客満足(CS)向上のメリット
リピーター増加
上記の通り、顧客満足はCRM(顧客関係マネジメント)と密接に結びついていますが、顧客満足度が向上することで得られる最大のメリットはリピート率の増加でしょう。あるサービスや製品を利用して顧客の満足度が高いと次もそのサービスを利用しようという考えが働きます。リピーターが増えるとビジネスとしても固定客を獲得することができ、安定した収益を見込むことができるようになるため、長期的に事業を成長させる上でもとても有効です。
コストを減らすことができる
顧客満足が向上するとユーザーによる購買・利用頻度が上昇します。これに伴うメリットがコスト削減です。特に販売促進・広告費用の圧縮が期待できます。例えば、広告・宣伝活動はそのサービスを知らない新規顧客を獲得するために有効です。そのため、Twitterを運用するなどのSNSマーケティングで新規の顧客を開拓するわけですが、マーケティング活動にはコストがかかります。特に新しいサービスを始めるときには起業資金も限られているため、ユーザーがリピートしてくれれば広告・宣伝活動を行う頻度を減らすことができ、コストを下げることができます。コストを下げると収益が上がるため、ROIも向上することになります。
ブランドマネジメント
顧客満足はブランドマネジメントにおいても非常に効果的です。ユーザーがそのサービスや商品に対して高い顧客満足度を覚えているということは、それをブランドとして認識している可能性が高いことにもつながります。ブランド力が向上するということは、『似たようなサービスがあるならこちらを利用したい』という消費者行動につながり、ビジネスとして優位性が高くなります。
結果的に競合他社との差別化もしやすくなり、価格競争に晒されにくくなるので安定した収益が期待できるようになります。
顧客満足(CS)向上のデメリット
顧客満足はビジネスを成長させる上で重要な指標である反面、必ずしも万能なものでもありません。顧客満足を追求すれば必ずしも成果が出るというわけではないため、以下では顧客満足向上に取り組む上で考えられるデメリットについても解説します。
長期的視点が必要
事業がうまくいかずにいる人は顧客満足(CS)に目を向けるべきですが、必ずしもすぐに結果が出るものではなく、時間がかかります。そのため、仮にすぐに成果が必要という場合は顧客満足向上に取り組むインセンティブは低く、優先度も高くできない場合があります。
そのような場合は営業支援ツールなどを採用することで販売促進に取り組みつつ、顧客満足向上をKPI(重要業績評価指標)のなかに入れることで従業員たちと共有していくことが効率的です。いずれにせよ即効性のあるものではないため、長期的な視点が必要になります。
価格競争に参加してしまうリスク
上記でブランド力が強化されれば価格競争に晒されないと説明しましたが、顧客満足の意味を間違えると価格競争に参加してしまうリスクはあります。
というのも多くの事業者は『顧客を満足させるにはどうしたらよいだろうか』と考えた結果、安易に価格を安くして喜ばせようと考えてしまうことがあるからです。自分のビジネスの優位性や強みに気がつけないと、どうしたら顧客を満足させられるかわからなくなり『コストを下げて満足度を上げよう』と走ってしまうと本末転倒になってしまいます。
自分の企業の強みがわからないという場合は3C分析やSWOT分析でビジネスが置かれている状況を整理し、そのなかで自社が差別化できる優位性を見つけましょう。
自社の方向性がずれるリスク
顧客満足が過剰になってしまうと自社の企業理念や方向性とズレてしまい、起業で失敗する末路の典型となってしまいます。例えば日本ケンタッキーは過去にチキン以外の商品でお客さんを飽きさせないために牛肉のハンバーグなどチキンを使わない新商品を次々に発表した時期がありました。しかし、結局のところ顧客が求めていたものではなかったため、この計画は見事に失敗してしまいます。
このように、顧客満足のベクトルを間違った方向に向けてしまうと自社の方向性がズレ、失敗してしまうことになります。起業の準備段階では特に自分たちの方向性を優先させるべきか、顧客満足を優先させるべきか迷うことは必ずありますが、こんなときは4P分析などで自社にとって本当に必要なものは何かを問い直してみるとよいでしょう。
顧客満足(CS)向上のメリット:
- リピーターが増加
- 宣伝費などのコストを削減できる
- ブランドマネジメントが効果的になる
- 価格競争に強くなれる
顧客満足(CS)向上のデメリット:
- 長期的視点が必要
- 時間がかかる
- 安易な値下げで満足させると価格競争になってしまう
- 自社の方向性がブレるリスク
顧客満足(CS)を向上させる心がけとは?
『顧客を満足させることが大事だ』と一般論を言われても、多くの事業者の方は「そんなことわかっているけどやり方がわからなから困っているんだ」と思うことでしょう。
ここでは顧客満足を向上させるうえで必要な心がけやポイントを紹介していきます。
顧客満足向上の心がけ1:まずは顧客の『事前期待値』を把握
これは消費活動にかかわらず、私たちの生活でも一般的に言えることですが、私たちが満足を覚える心理状態とは、物事が自分の期待よりも上回った状態だと言えます。
消費社会において顧客が満足感を覚えるときは購入前に商品やサービスに対して持っていた期待値のことを『事前期待値』と呼びます。そのサービスや商品を購入した後は使用感などを評価するため、この『実績評価』が『事前期待値』を上回れば顧客満足は高く、逆に下回れば顧客満足は低くなります。
そこで顧客満足を向上させる心がけとして、顧客の持つ『事前期待値』を把握する必要があります。例えば、過去にあった事例としてはあるサブスクサービスは『定額で利用し放題』を謳っていたものの、実際には利用し放題なコンテンツは限られていたり、設定に応じて細かい課金が発生したりなどの事業がありました。これは顧客が持っていた『利用し放題』という事前期待値が裏切られる形となったため、顧客満足は悪化する結果となりました。
顧客満足向上の心がけ2:顧客の期待以上を提供
事前期待値が把握できれば、それ以上のサービスや商品を提供し、『実績評価』を上げることで顧客満足の向上につなげられます。
ここで注意しなければならないのは、上記の顧客満足のデメリットでも述べたように安易に価格を安くしたり、量を増やしてお得感を増やそうという方向に走るのはやめましょう。自社の方向性が薄利多売であれば有効ですが、そうでない場合自社のブランド戦略が崩れたり、顧客を失うことにもなりかねません。
顧客満足向上の心がけ3:顧客関係マネジメント(CRM)を駆使する
ユーザーを満足させただけでは必ずしもその人がリピートしてくれるとは限りません。自社のサービス内容に応じて適切なCRMシステムを採用し、顧客を管理できるツールを使って顧客維持に努めましょう。例えばセールスイネーブルメントはCRMツールの一つで、効果的な販売戦略に有効です。
顧客満足向上の心がけ4:顧客満足度を調べる
最後に実際に利用した人から直接彼らの『事前期待値』と『実績評価』を調べると具体的な顧客満足度をデータとして入手することができます。調べる際に大事なことは、リピーターの意見ばかりではなく新規の顧客など幅広い人たちの意見を反映させることにあります。
お得意さんやリピーターは出現率が高いためどうしても調べる対象として浮上しやすくなってしまいますが、それでは顧客満足度にバイアスが発生し正しく調べることが難しくなります。
顧客満足の調べ方
顧客満足(CS)の調べ方は様々ですが、以下では代表的な方法を紹介します。
・インターネット調査
インターネット調査は誰でもできる簡単な調べ方でしょう。ウェブサイトやEC事業の運営サイトなどへの流入状況やユーザーが到達したときの検索キーワードを分析すると、自社の製品に興味のある人はどのような経路でたどり着いているかが分かります。これにより、その人たちがどのような『事前期待値』を持っているか目測がつきます。キーワードなどを調べるとSEO対策にもなります。
その後、口コミサイトなどを確認し、自社の製品やサービスがどのように評価されているか調べると『実績評価』が簡単にわかるので便利です。
・アンケート調査
商品を利用した人などにアンケート調査をお願いすると具体的な実績評価が得られます。今の時代、インターネットでアンケート調査ができるため、安いコストで多くの人からデータを集積できるのがメリットです。
アンケートを作成するうえの注意点として、質問の目的を明確にし、答えにくい質問を作ったり、回答数を多くしすぎないことが挙げられます。事業者としては細かいところまで利用者の声を聞きたいところですが、記入欄が多くなりすぎると回答率が下がります。また、匿名で回答できるようにするのも回答率をあげるうえで効果的とされています。
メールマーケティングをしている場合はユーザーのメールアドレスにアンケート調査の案内を送るのも効率的でしょう。
・ヒアリング調査
従来のやり方ですが、実際にユーザーにあってヒアリングを行うのも効果的な顧客満足度の調べ方です。これは対面だったり、電話やオンラインでのヒアリングもできます。ネット上の口コミや書き込みは極端な意見が出ることがあるため、実際の利用者の声を知る上でもヒアリングは効果的です。
顧客満足の成功事例
顧客満足を体現している事例として、以下の例があります。これらの例から自社のビジネスに応用できることを取り入れてみましょう。
顧客満足の成功事例1:東京ディズニーランド
ディズニーランドは誰もが知るテーマパークですが、単にブランド力以上の理由で高い顧客満足を実現しています。
TDLには社員とアルバイトなどを合わせて2万人近くが働いていますが、全ての従業員に顧客満足向上の意識が徹底されています。これは“主体的な思いやり”がディズニーで考えるホスピタリティとされており、来訪者の事前期待とを超えるサービスを提供する意欲が旺盛なことから高い顧客満足を得られていると分析できます。実際に、園内の芝生は冬でも青々としているのは従業員が早朝に枯れかけた芝生を毎日植え替えているからとされており、これは指示されたものではなく、自発的に行っていることだそうで、同社では新人のOJT(職場内教育)を徹底することで新人社員も主体的におもてなしができるように教育しているそうです。
顧客満足の成功事例2:再春館製薬
再春館製薬といえば「初めての方にはお売りできません」というCMを見たことがある人も多いと思います。実際、初めての利用者にはサンプルを配り、顧客満足度を確認したところで製品の販売をするため高いリピート率が実現できているとされています。
また、顧客調査と分析を細かく行うために、1年以上のリピート率が高いともされていて、同社はマーケティングによる新規顧客の開拓よりもリピーター維持に力を入れています。このことから高い顧客満足によるメリットを実際に実現している事例ともいうことができます。
まとめ
この記事では顧客満足(CS)を解説し、向上させるためのカギや心がけ、実際の事例を紹介しました。
起業で成功するためにも顧客満足の向上は避けては通れない部分になりますので、本記事を参考に向上する方法や心がけを自社のビジネスに応用してみてください。