ワークフォースマネジメントは、企業全体の生産性を最大化するために欠かせないプロセスです。需要変化を予測し、従業員一人ひとりのタスクやスケジュールを前もって決定することは、ビジネスを成功に導く上で最も重要なプロセスだと言っても過言ではありません。
しかし、膨大なデータをもとに労働要件を最適化する必要があるため、適切な人員配置の実現には常に困難が伴います。この記事では、ワークフォースマネジメントの要点と、より効率的な労働力管理を実現するための方法を紹介します
ワークフォースマネジメントとは?
ワークフォースマネジメントとは、人員配置を最適化するプロセスのことです。英語では「Workforce Management」と呼ばれ、労働力(ワークフォース)を管理(マネジメント)することからこの名前で呼ばれています。英語の頭文字を取ってWFMと呼ばれることも多く、WFMを可能とする仕組みのことをWFMシステムと呼びます。
ワークフォースマネジメントは、従業員一人ひとりのタスクとスケジュールの決定を主な内容としています。毎月の総労働時間はもちろん、シフト組みや特定の仕事に対する締め切りなど、細かな業務まで全てを包括して扱うのが特徴です。
従業員の勤務状況やパフォーマンスを把握するのにも役立つため、人事評価とも関係の深い概念だと言えます。ビジネスの根幹を成す取り組みですが、効率的な実施には困難を伴うことがしばしばあります。
例えば、大企業の場合はWFM対象の従業員の数が膨大となることがあります。また、リアルタイム業務の場合はバックアップ人員などを確保する必要もあるため、人力で労働力を最適化するのは限界があるとも言えるでしょう。
たとえば、コンタクトセンターなどを運営している場合、顧客から寄せられる問い合わせの量を正確に予測し、各問い合わせを適切に処理できるような人員体制を築き上げる必要があります。
変化する需要や欠員などに対応するのは簡単ではなく、人事や管理職の従業員だけでなく会社全体が一丸となって最適な人員配置に取り組む必要があります。
これを容易にするため、ツールやソフトウェアを使用してワークフォースマネジメントを行う企業も多く、労働力管理自体が特定のニッチとなっている現状もあります。WFMシステム市場は成長傾向にあり、Microsoftなどの大手企業も独自のソフト開発に取り組んでいます。
ワークフォースマネジメント例
ワークフォースマネジメントの例には、以下のようなものがあります。
- 需要の予測
- 従業員のスケジュール組み
- 勤怠管理
- 個人のパフォーマンス管理
- コンプライアンス
- 給与と福利厚生の管理
- 休暇と休憩の管理
需要の予測
特定の日や期間にどれだけの人員が必要か把握するためには、需要を前もって予測する必要があります。年末年始などの需要増が見込まれる時期には特に、過去のデータを参照するなどして配置するスタッフの数を算出するのが一般的です。
逆に需要減が見込まれる時期には、有給休暇を促すなどして一時的な人員削減に取り組む必要があります。経験則で需要を予測するのも有効ですが、ワークフォースマネジメントのツールを用いるとより正確な数字を算出することができます。
従業員のスケジュール組み
WFMの中核をなすのがスケジュール組みです。社員の負担を減らすためにも、スケジュールは合理的かつ余裕のあるものである必要があります。そのためには、病欠や個人の能力など、様々な要素を総合的に考慮するのが重要です。
勤怠管理
社員の勤怠を記録するのも、ワークフォースマネジメントの一部です。出勤状況を追跡することで、慢性的な欠勤や遅刻が発生していないか特定し、対策を講じることができます。従業員自らが勤務時間を入力する形を取ることが多く、通常は直属の上司などが勤怠報告を承認する役割を引き受けます。
従業員のパフォーマンス管理
昇進やボーナス額の決定に欠かせないのが、従業員一人ひとりのパフォーマンス管理です。WFMシステムはタスクの進捗状況を追跡・記録できるため、成果を挙げている社員を定量的に特定できるのが売りです。また、管理者がコメントを添付するなどすることで、社員の個性を理解して建設的なフィードバックを提供することが可能となります。
コンプライアンス
ワークフォースマネジメントは、労働時間の効率的な配分だけにとどまりません。各従業員が就業規則を遵守しているかを監視することも労働力管理の一環に含まれます。コンプライアンスに問題が見られる場合、研修を行ったり、規約を見直すなどの処置が必要となりますので、定期的に社員からアンケートを取るといった方法が一般的です。
給与と福利厚生の管理
給与や福利厚生が契約どおりにきちんと提供されているかを確認するプロセスです。主に会計士が担当し、より良い支払い方法がないかどうかなどの改善点を探ることができます。また、脱税や資金の持ち出しは会社の信頼を損ないかねませんので、健全な運営を維持するためにも欠かせないプロセスだと言えます。
休暇と休憩の管理
社員の健康を確保することは、持続的なビジネスを可能とする上で欠かせません。十分な休暇と休憩を設けながら運営効率を向上させるには、各社員の有給取得状況や健康状態の把握が不可欠となります。健康診断の実施などを計画するためにも、従業員の健康状態を追跡するなどのワークフォースマネジメントが必要です。
ワークフォースマネジメントのメリット・デメリット
ワークフォースマネジメントのメリット・デメリットを理解することで、WFMシステムをより効率的に使いこなすことができます。ソフトウェアの選定にも役立ちますので、以下で特徴をおさらいしてみましょう。
メリット
ワークフォースマネジメントのメリットには、生産性の向上、労働環境の改善、運用コストの削減、よりクリーンな運営体制の実現、顧客体験の改善などが挙げられます。サービス業など、効率的な人員配置がサービスの質に直結する業種では特に、メリットが大きいと言えるでしょう。
デメリット
ワークフォースマネジメントのデメリットには、実施の難しさなどが挙げられます。ツールなどに頼らない場合、参照しなければならないデータの多さに圧倒されてしまうということもあり得るでしょう。また、時間との戦いとなることが多いため、マネジメントする側の精神的負担が大きいという問題もあります。こうした問題には、次の項目で述べるツールやソフトウェアを使うことで対処可能です。
なお、OJTなどを行なっている新人に対するケアは、このような標準化したアプローチではカバーできないため、個別のアシストが必要となります。
WFMシステムのメリット・デメリットまとめ
メリット
- 効率的なサービス提供により、顧客体験を改善できる
- 人的コストを無理なく削減できる
- 効率的な運営により、社員の不満を低減できる
- 従業員の健康を保ち、健全な運営体制を維持できる
- ブランドイメージの向上につながる
- 専用のソフトウェアが利用可能
デメリット
- 手間がかかる
- 精神的負担が大きい
- 予期せぬ事態(自然災害など)に対応するのが難しい
ワークフォースマネジメントのツール・ソフトウェア
ワークフォースマネジメント用のツールやソフトウェアを使用することで、より効率的かつ効果の高い労働力管理が可能となります。スケジューリングやタスクの割り当てなどを自動化できるため、管理職の業務を大幅に簡略化できるのが売りです。
変化する需要に合わせて動的に人的リソースを割り当てることができるため、コスト削減とサービスの質向上を同時に成し遂げることができるとされています。サードパーティの人事アプリと連携できる場合もあり、拡張性があるのも特徴です。
一部のワークフォースマネジメントソフトは、従業員自身が休暇を申請したりできるセルフサービス機能も有しています。こうした機能も人事や管理職の負担を軽減することにつながり、より効率的かつ自立的な運営を可能とします。
クラウドコンピューティングの発展により、マネジメントソフトにビッグデータやAIを応用できる可能性があるのも魅力です。2023年度のワークフォースマネジメント市場は90億ドル規模とも言われており、IBMやOracleなどの有力企業がシェアを奪い合う状況が続いています。
このような、システマチックなアプローチで仕事量の最適化をすることは、360度評価やサーベイなどの意見吸い上げの手間が省けるため、管理側のこう数が非常にするなくなるのもアドバンテージです。
代表的なWFMツール・ソフトウェアをまとめました。
- Teams・・・Microsoft社製の従業員管理ソフト。ウィンドウズと相性がいいのはもちろん、多くの人に利用されているため、使い方を学ぶ手間が省けるのも魅力です。
- Human Capital Management(HCM)・・・Oracleの人事ツールで、WFMをはじめとして様々な機能を備えています。クラウドで動作するため、世界各地の従業員のデータを一括して管理できるのが売りです。
- Infor Workforce Management・・・予算組み、スケジュール管理、勤怠管理、従業員によるセルフサービス、コンプライアンスなどを一括して行えるWFMシステムです。見やすいインターフェースに加えて様々な図を出力する機能があります。
- Alvaria Workforce・・・コールセンターの従業員管理に焦点を当てたソフトです。コールセンター特有のマルチチャンネル環境に対応しており、コンプライアンス遵守をリアルタイムで監視できる機能も持ち合わせています。
どのWFMソフトウェアが良いかは、ビジネスの形態や会社の規模などに依ります。コンタクトセンターなどを運営している場合は、リアルタイムの監視機能があるツールが最も適しているでしょう。また、Teamsなどの無料で使用できるソフトを試用することで、WFMシステムを導入すべきかどうかの判断に役立てることもできます。
ワークフォースマネジメントまとめ
ワークフォースマネジメントについて解説しました。WFMシステムの構築は、現代の企業にとって無くてはならないものだと言えます。効率的な運営を可能とするためにも、従業員管理ツールを導入して人員配置やレポート作成を自動化することが求められます。
また、適切な社員管理ができない場合は離職率の増加を招く恐れもあります。ブランドイメージを損なうことにもなりかねませんので、ワークフォースマネジメントはビジネスワークフローの中で最も大事なプロセスのひとつと認識する必要があります。
特にコールセンターなどで威力を発揮するWFMシステムですが、中規模以上の会社であればツールの使用は不可欠だと言えるでしょう。無料で使えるソフトもある一方、有料版を利用するとさらに効率的な従業員管理が可能となる可能性があります。これから導入するという場合は、よくリサーチを行なった上で自身の事業形態に最適なものを選定すると良いでしょう。