ビジネスにおける企業間の競争環境は近年、激しさを増しています。このような環境下で企業の競争力を高めるには、企業活動のデータを把握・分析して、迅速な意思決定を下すことが重要とされています。なかでも「ビジネスインテリジェンス(BI)」が企業の経営管理人事管理(HR)の分野で注目を集めており、BIツール(ビジネスインテリジェンス・ツール)を導入する企業も増えてきています。

本記事ではビジネスインテリジェンスについて、概要からBIツールの主な機能、BIツール導入のメリット・デメリット、選定時のポイントなどを紹介していきます。企業勤めの方から起業アイデアを考え中の独立希望者まで、有益な内容となっておりますので、ぜひ最後まで読み進めて下さい。

ビジネスインテリジェンスとは?

ビジネスインテリジェンスとは

まず、ビジネスインテリジェンスの基本的な概要および目的について、わかりやすく解説していきます。

ビジネスインテリジェンスの概要

ビジネスインテリジェンス(BI)とは、企業の各セクターで蓄えられたデータを一元的に収集・分析し、それを基に経営戦略や意思決定の参考とするための技術や手法を指します。これには、企業が日常的に収集する売上データ、在庫情報、顧客の購買履歴、市場の動向といった様々なデータを統合し、解析するプロセスが含まれます。

ビジネスインテリジェンスという概念の起源は、1958年に遡ります。当時、IBMの研究者たちがこのフレーズを導入し、企業経営に大きな影響を与えました。ビジネスインテリジェンスの考え方は時間とともにデジタル技術と結びつき、企業の意思決定を支えるシステムとして進化してきました。そして1989年、米ITアドバイザリー大手ガードナー社のエキスパートにより、今日に通じるビジネスインテリジェンスの基本的枠組みが確立されたのです。ビジネスインテリジェンス施策を実行するには、いわゆる「BIツール(ビジネスインテリジェンス・ツール)」が必要となります。提供形態としては、自社サーバー上で動作する「オンプレミス型」と、インターネット経由でどこからでもサーバーに接続できる「クラウド型」が存在し、どちらを選ぶかは企業の要望や状況に応じて変わります。

ビジネスインテリジェンスの目的

ビジネスインテリジェンスの目的は多岐にわたりますが、以下3つの目的が主なものとされています

  1. データの管理:企業の日常業務は膨大なデータを生み出していますが、これらはしばしば、企業部門ごとに分散して保存されています。BIツールの第一の目的は、これらの散在する情報を一元化し、容易にアクセス可能なデータプラットフォームを形成することです。情報の一元化は、データ分析や意思決定を迅速かつ正確に行うための基盤となります。
  2. データの分析:ビジネスインテリジェンスにおいては、単にデータを集めるだけでは十分ではありません。その真の価値とは、蓄積・統合されたデータを緻密に分析し、潜在的なビジネスのチャンスやリスクを明らかにすることにあります。データの集計や複数のデータセットの組み合わせによって、ビジネスの現状や将来の傾向を明確に理解することができます。
  3. データのビジュアル化:分析されたデータの意味を迅速に理解するには、それをわかりやすく可視化することが不可欠となります。BIツールは、データ分析の結果を分かりやすい形に可視化し、経営者が限られた時間でデータ分析のエッセンスを掴むのを助けます。

ビジネスインテリジェンスはこれらの目的を達成することで、企業の経営判断をサポートし、データドリブンの企業経営を進める助けとなります。

BIツールと基幹系・情報系・戦略系システムとの違いは?

ビジネスインテリジェンスのデスクイメージ

BIツール(ビジネスインテリジェンス・ツール)は基幹系・情報系・戦略系システムに日々蓄積される多種多様なデータを収集・分析し、企業経営に役立つ形でアウトプットします。ここでは、それぞれのシステムについても簡単に紹介します。以下3つのカテゴリーは、企業が情報を効果的に活用し、競争力を高めるための重要なシステムツールです。各システムが持つ特性や機能を理解し、適切に組み合わせて活用することで、企業の競争力を向上できます。

基幹系システム

基幹系システムは、文字通り企業の根幹業務をサポートする基幹システムが代表格です。これに加えて ERP( Enterprise Resource Planning )システムがあります。ERPは、日本語では企業資源計画、統合基幹業務システム、基幹システムなど様々な呼び方をされています。一言でいうと、ERPとは企業の様々な業務プロセスを統合し、情報を一元管理するシステムです。

このような基幹系システムの最大の特徴は、ワークフローの効率化や自動化を実現することで、日常の業務運用をスムーズにする点にあります。これにより、企業内の人員配置を最適化するワークフォースマネジメントも最適化できるなど、業務の非効率を減少させると同時に、スピーディな意思決定をサポートします。

情報系システム

情報系システムは、社内コミュニケーションや事務作業の効率化を目的としたシステムです。具体的には、メールやチャットツール、オフィスソフト、スケジュール管理やファイル共有に関連するソフトウェアなどが挙げられます。とくに最近では、新型コロナウィルスの影響を受けたテレワーク文化の拡大に伴い、これらの情報系システムの重要性が一層高まっています。従業員同士の円滑なコミュニケーションをサポートするチャットツールや、リモート会議を支えるビデオ通話ツールなど、オンライン環境でのビジネスをスムーズに進めるためのシステムが求められています。

また、データウェアハウス(DWH)のような高度な情報統合システムも注目を集めています。これは、複数のデータソースからの情報を一元管理し、迅速なデータ分析をサポートするためのシステムです。このようなシステムを利用することで、企業は市場の変動や顧客のニーズを的確に捉え、迅速な経営判断を下すことが可能となります。

戦略系システム

戦略系システムは、企業の経営戦略や方針の策定をサポートするシステムを指します。ビジネスインテリジェンスにおけるBIツールもこのカテゴリに含まれます。これに加えて、広範囲にわたるシステムやツールが戦略系に分類されます。

例えば、顧客管理の効率化を目的としたCRM(顧客関係管理)システム、自社の営業スタッフの行動を管理し、効率化することを目的としたSFA(営業支援)システム、マーケティングプロセスの最適化を図るMA(マーケティング・オートメーション)システムなどが戦略系システムに分類されます。

ビジネスインテリジェンス・ツール(BIツール)の主な機能

ビジネスインテリジェンスの要素

BIツール(ビジネスインテリジェンス・ツール)は、データを収集・分析・可視化するためのITツールとして、多くの企業で導入が進められています。以下、BIツールの主な機能を3つ紹介します。これらの機能は、企業のニーズや目的に応じて柔軟に利用することができます。

BIツールの機能①データの管理

1つ目は、データ管理系機能です。ビジネスインテリジェンスの分野で大量のデータを扱うために必要な機能群です。 具体的な機能は以下の通りです。

  • データ統合機能:さまざまなデータソースからの情報を一元的に管理・統合する機能です。これにより、データの一貫性が保たれるとともに、分析精度が向上します。
  • ETL(データ加工)機能:「Extract/Transform/Load」の略で、複数のシステムからのデータを抽出、変換・加工し、データウェアハウス等へ統一的に蓄積する機能を指します。
  • データウェアハウス機能:複数のデータソースから収集した情報を一元的に管理・再構成し、長期的に蓄積するための統合データベース機能です。

BIツールの機能②データの分析

2つ目は、データ分析系機能です。ビジネスインテリジェンスにおいては、複数データを掛け合わせるなどして、事業の現状を読み取るための分析をすることが可能です。具体的な機能は以下の通りです。

  • OLAP分析:「Online Analytical Processing」の略で、膨大なデータをリアルタイムに複雑な集計や分析する機能です。多次元的な分析やドリルダウン、ダイシング、スライシングなどの高度な操作が可能です。
  • データマイニング:これは、蓄積されたデータから隠れたパターンや関連性を発見する機能です。統計的手法を利用して未知の情報や傾向を探索します。
  • プランニングとシミュレーション:予算策定や未来のシナリオの検討を支援するための機能。What-if分析を用いて、条件変更時の影響を確認することができます。

BIツールの機能③データのビジュアル化(レポーティング)

3つ目は、データのビジュアル化(レポーティング)機能です。BIツールでは、データの分析結果から必要な情報を素早く読み取れるよう、情報を可視化することが可能です。主な機能は以下の通りです。

  • ダッシュボード機能:重要なデータやKPIを一目で確認できる視覚的な表示画面です。リアルタイムのデータ動向やアラート機能を備えているものも多いです。
  • レポーティング機能:データを指定のフォーマットで整理し、出力する機能です。特定の目的や期間、部門ごとのレポートを効率的に作成することが可能です。

BIツール導入のメリット・デメリット

ビジネスインテリジェンスのダッシュボード

BIツール(ビジネスインテリジェンス・ツール)の導入は、企業のデータ分析や意思決定の支援に役立つ一方、いくつかのデメリットが伴います。ここでは BIツール導入のメリット・デメリットについてわかりやすく解説します。

BIツール導入のメリット

  • 顧客体験の向上
  • 経営判断に必要な情報をリアルタイムで得られる
  • 競合を高精度で分析できる
  • 業務効率の向上
  • マーケティング戦略の最適化
  • マーケティングチャネルの最適化
  • 広告戦略の最適化

BIツール導入のデメリット

  • 初期コストがかかる
  • 従業員への教育が必要
  • システム互換性の問題

BIツール導入のメリット7選

ここではBIツール導入の主なメリットを7つ挙げて、詳しく解説します。

  1. 顧客体験の向上:顧客体験は企業のブランド価値を大きく左右します。 BIツールを導入することで、購入履歴などのデータを解析し、顧客の期待を先読みして対応することができます。これらの分析データをブランドマネジメントの最適化に活用することで、顧客ロイヤリティを高めることが可能となります。
  2. 経営判断に必要な情報をリアルタイムで得られる: BIツールを導入することで、深度のあるデータ解析が可能となります。これにより、経営者は迅速かつ正確な意思決定を下すことができます。特に、在庫管理の際に、どの商品がよく売れているか、どの商品が在庫切れのリスクがあるかなどを瞬時に把握し、適切な対応を取ることができます。
  3. 競合を高精度で分析できる: BIツールを導入することで、競合他社との価格、サービス、商品ラインナップなどを比較分析することが容易になります。この情報を元に、自社の弱点や強みを明確にし、最適化されたマーケティング戦略を策定することができます。4P分析や3C分析、SWOT分析、PEST分析といった各種フレームワークも併用することで、より高精度な分析が可能となります。
  4. 業務効率の向上:BIツールを利用すれば、繁雑なデータ入力や分析作業を効率化できます。これにより、業務の生産性が向上し、より価値の高いタスクに時間とリソースを集中することができます。例えば、注文から出荷までのプロセスを自動化し、迅速な発送を実現することが可能です。
  5. マーケティング戦略の最適化:BIツールのデータ分析機能を活用することで、マーケティング戦略の最適化を図ることができます。例えばオウンドメディアにおけるアクセスデータを分析することができます。BIツールを使いこなすことで、最少の労力で最良のコンテンツマーケティングを展開することが可能となります。
  6. マーケティングチャネルの最適化:SNSマーケティングメールマーケティング動画マーケティングインフルエンサーマーケティングなど、企業ごとにマーケティングチャネルは異なりますが、BIツールを活用することで現時点でのマーケティングチャネルの費用対効果を測定し、最適化させることができます。
  7. 広告戦略の最適化:BIツールは、企業の広告戦略の評価・修正に役立つ情報をリアルタイムで提供してくれます。リスティング広告およびディスプレイ広告の施策結果を基に、より効果的な戦略やアクションプランを立案することができます。

BIツールは、企業のデータドリブンな意思決定を支え、競争力を向上させるための強力な武器となります。適切なBIツールを選定し、戦略的に活用することで、企業は持続的な成功を追求することができるでしょう。

BIツール導入のデメリット3選

ここではBIツール導入に伴い予想されるデメリット3選を解説します。

  1. 初期コストがかかる:BIツールの導入には、ライセンス料や初期設定のコストがかかります。特に高度な分析機能やカスタマイズを要する場合、初期投資はさらに増大する可能性があります。中小企業やスタートアップなど、資金に制約のある組織では、この初期コストが大きな負担となることもあります。独立事業主の場合は、起業費用に使える創業補助金を申請するなどし、初期コストを削減するための施策を行いましょう。
  2. 従業員への教育が必要:BIツールの導入だけでは、その真価を発揮することは難しいです。効果的なデータ分析やダッシュボードを作成するには、専門的な知識や技術が必要となります。組織内にこれらのスキルを持つメンバーが不足している場合、外部コンサルタントや研修サービスを利用する必要があるかもしれません。また、全従業員が新しいツールを理解し、日常業務に組み込むためのOJT360度評価の見直しも必要となるでしょう。
  3. システム互換性の問題:BIツールが既存のシステムやデータベースと完全に互換性があるとは限りません。これにより、データの統合や移行に関連する技術的な課題が発生する可能性があります。また、新しいツールの更新やアップグレードに伴い、システムの不具合やダウンタイムが生じるリスクも考慮しなければなりません。これらの問題を回避するためには、導入前の詳細なテストやシステムの最適化が不可欠となります。

結論として、BIツールの導入は多くのメリットをもたらす一方で、上記のデメリットを十分に認識し、計画的に導入することが求められます。BIツールの選定から導入、運用に至るまでのプロセスを慎重に進めることで、これらのデメリットを最小限に抑えることが可能です。

BIツール選定における3つのキーポイント

ビジネスインテリジェンスの効果は、適切に選定されたBIツールによって初めて最大限に発揮されます。以下、BIツール選定の際に注目すべき3つのポイントについて深掘りします。

企業のビジネス要件と一致しているか

BIツールを導入する最大の理由は、業務を円滑に進め、業績を飛躍させるためです。そのため、まず自社の業務ニーズと要件を明確にして、完全にマッチングしたBIツールを選定することが必須となります。具体的には、どういった類のデータ分析が必要で、どの部門で、どんな方法で活用するのか、必要なレポートやダッシュボードの特性などをしっかりと定義することが求められます。 マーケティング部門におけるキャンペーン効果の分析や、経理部門における財務データの詳細分析など、各部門の具体的なニーズに応じてBIツールを選ぶことが、業務効率と意思決定の質の向上に繋がります。

拡張性があるか

企業は常に進化し続けます。それに伴い、BIツールも最新のビジネスニーズに応じる能力が必要となります。とくに変動が激しいスタートアップでは、BIツールにも拡張性(スケーラビリティ)が求められます。 初めから拡張性や柔軟性を持つBIツールを選ぶことで、将来的に予想される余分なコストや再導入の手間を削減することができます。さらに、カスタマイズの容易さやAPIの提供など、他のシステムやサービスとのシームレスな連携が可能かも確認しておくことがおすすめです。

サポート体制が整っているか

BIツールを運用、専門的な知識が必要になる場面は少なくありません。ここで、ベンダーのサポートの有無が大きな違いを生むことがあります。サポート対応のクオリティ、問題解決までのスピード、継続的なアップデートや教育サービスが提供されているかなど、BIツール選定の際に確認すべきポイントがいくつか存在します。単にBIツールの機能や性能だけでなく、BIツールを提供するベンダーのサポート体制やサポートの質にも注目することが重要です。

ビジネスインテリジェンスのよくある質問(Q&A)

BIツールの導入時に気をつけるべきポイントは何ですか?

小規模事業者でもBIツールの導入は適していますか?

BIツールの導入には、どのぐらいの期間が必要ですか?

ビジネスインテリジェンスとデータ分析の違いは?

BIツールの主なメリットは何ですか?

BIツールとデータウェアハウス(DWH)の関連性はありますか?

まとめ

ビジネスインテリジェンスは、企業の競争力向上における不可欠なツールとして認識されています。データを単に視覚化する以上の価値を持ち、経営戦略や業務改善の指針を提供します。その真価を発揮するには、適切なBIツールの選定、データの品質保持、従業員への教育などがキーポイントとなります。導入の過程で直面するコストやスキルアップの課題を克服すれば、顧客体験の向上や迅速な経営判断に必要な洞察を得られるなど、多くのメリットが得られます。本記事をブックマークした上で何回も読み込んで、ビジネスインテリジェンスの真の価値と活用法の理解を深め、ビジネスの成功につなげてください。