現代のビジネスは、テクノロジーの進化や市場の変動によって変わり続けています。このような環境の中で、企業は自社の業務プロセスを見直し、改革することで競争力を維持・拡大する必要があります。ここで重要な役割を果たすのがBPR(Business Process Reengineering)、すなわち「業務改革」です。
BPRは、単なる業務の最適化や効率化を超えて、業務プロセスそのものを根本から再設計することを目指します。これにより、企業は顧客満足度や生産性の飛躍的な向上を実現できます。しかしBPRを成功させるには、BPRの意味や背景に加え、具体的なBPRの進め方やフレームワークを正しく理解することが不可欠です。
本記事では、BPRの基本概念から、メリット・デメリット、BRPの成功事例まで詳しく解説します。BPRに初めて取り組む方から実施中の方まで、全ての読者にとって実践的なガイドとして役立つ内容となっております。BPR(業務改革)の意味を深く理解し、読者自身のビジネスを成功させるために、本記事を通じてBRPの手法を学んで実践してみましょう。
BPR(業務改革)クイックガイド
- BPRの目的は、業務プロセスを根本から再構築し、全体的な生産性や顧客満足度を向上させること
- BPR(業務改革)と業務改善、BPO、DXといったアプローチの違いを理解することは重要
- 効果的なBPRの進め方やフレームワークを知ることで、成功率が高まる
- 過去のBPR成功事例を分析することで、自身のBPR進め方に関するヒントやインスピレーションを得ることが可能
BPRとは?
BPR(Business Process Reengineering:業務改革)とは、企業の業務プロセスを劇的に改善するビジネス戦略の手法です。 BPRの概念が初めて提示されたのは1990年初頭で、米マサチューセッツ工科大学のマイケル・ハマー教授が初めて提唱したとされています。ハマー博士が考案したBRPは、後に経営コンサルタントとして名を馳せたジェイムス・チャンピー氏との共著『Reengineering the Corporation』で発展的に継承されました。
BPRのアイディアが日本に入ってきた1990年代初頭、日本の経済メディアも積極的にBRPを取り上げるようになりました。日本経済は当時、バブル崩壊直後の低迷期にあったことから、BPRは新しい経営戦略の手法として期待されていました。一方、「BPRはリストラ策だ」と考える識者も一部存在し、メリットよりもデメリットが目立つなど、期待通りの成果を十分に発揮できず、BPRの人気は下火となりました。
しかし近年になって、BPRへの関心が再び高まってきています。日本では労働人口の減少や働き方の改革が進んでいるといった事情が、BRP再ブームの要因として考えられます。現代の企業・自治体運営において、より効率的な業務プロセスが必要とされており、BPRの重要性が再評価されているのです。
ハマー教授によればBPRは「業務プロセスを根本から再考し、劇的な改善を図ること」を目的としています。BPRのアプローチは、業務プロセスの再設計において、革命的な変革をもたらすことを目指します。これは企業・自治体の運営、業界内の常識、組織に根付いた固定観念やビジネスアプローチを問い直すものです。BPRが必要となるタイミングは、企業運営を進めるなか、様々なかたちで表面化します。以下のような指標が、BRR実施を考えるうえで最適なタイミングとされています。
- 顧客からの苦情や返金リクエストが増加している
- スタッフのストレスが溜まり、離職率が高くなっている
- 経験豊富な従業員が退職したり、休職したりするケースが多くなった
- 収益低下が続いている
- セールスリード(将来的に自社プロダクトを購入・成約する可能性の高い消費者)のフォローアップができていない
- コーポレート・ガバナンスが欠如している
- 資金繰りに苦しんでいる
- 在庫率の上昇が続いている
BPR(業務改革)と業務改善、BPO、DXの違いを解説
企業・自治体の経営改革や業務効率化のためのアプローチとして、BPR(業務改革)は特に知名度が高いと言えるでしょう。一方で業務改善、BPO、DXといった関連するビジネス戦略の概念も、それぞれ異なる背景や目的を持っています。各用語はよく混同されるため、正確に BPR、業務改善、BPO、DX の特徴や違いを理解することは、経営戦略の策定や業務の最適化を行う上で非常に重要です。ここではBPRと比較しつつ、業務改善、BPO、DX の違いについて解説します。
BPRと業務改善の違い
BPRは業務プロセスの抜本的な見直しを行い、本来の目的に向かって業務フロー、組織・職務、情報管理システムなどを再構築します。一方で業務改善は、業務プロセスそのものの変更は行わず、業務に関わる人やモノ、情報などの無駄を省くことで効率化を図るという違いがあります。以下の表は、BRPと業務改善の違いを簡単に比較したものです。
BPR(業務改革) | 業務プロセスを根本から見直し、再構築する |
業務改善 | 業務プロセスそのものには変更を加えず、業務上の非効率を無くする |
BPRとBPOの違い
BPRは、既存の業務プロセスに存在する非効率な箇所を根本から見直し、再構築する手法です。一方でBPO(Business Process Outsourcing)とは、企業が特定の業務プロセスを専門家やアウトソーシング(外部に委託)する手法です。BRPが業務プロセスの効率化やクオリティ向上を目的とするのに対し、BRPは業務コストの削減が主な目的となります。BPRを進める上で有効となるフレームワークのひとつがBPOである、と考えることもできます。以下の表は、BRPとBPOの違いを簡単に比較したものです。
BPR | 企業・自治体における諸問題を抜本的に改革する |
BPO | 業務効率化・生産性向上を目指し、外部に業務プロセスの一部を委託する |
BPRとDXの違い
DX(Digital Transformation)は、デジタル技術を活用してビジネスモデルの変革を目指す企業戦略を指します。つまり、IT技術の導入を中心に、新しい顧客体験の提供やビジネスモデルの開発を行うのがDXとなります。BPRとDXと混同されることもありますが、実際は異なります。 BPRはビジネスモデルではなく業務プロセスの再構築を志向するのに対し、DXはデジタル技術を活用しビジネスモデルそのものを改革するという違いがあります。 以下の表は、BPRとDXの違いを比較したものです。
BPR | 企業・自治体の業務プロセスを根本から再構築して効率化を図る |
BPO | IT・デジタル技術を活用し、新しいビジネスモデルを創出する |
BPRに有効なフレームワーク5選
BPRの成功を目指す上で、有効とされるフレームワークの選択と組み合わせが鍵となります。以下、BPRを実施する際に役立つフレームワーク5選を紹介します。
4P分析
4P分析とは、ビジネスの場面で利用される代表的なフレームワークの一つです。Product(製品・サービス)、Price(価格)、Place(場所)、Promotion(宣伝)の4種類の「P」を検討する手法です。4P分析は、企業がプロダクトを開発し、マーケティング施策を考える際のアシストツールとなります。あらゆる業界やビジネスモデルに適用可能で、 BPR(業務改革)の初期段階における有効な分析手法となります。
3C分析
3C分析とは、Company(自社)、Customer(顧客)、Competitor(競合)の3つの要素に焦点を当てたマーケティング手法です。3C分析の理論では、企業はこの3要素を調和させるために時間をかけるべきで、そうすることで持続的な競争力を確保できるとしています。逆に、3要素の組み合わせがバランスを欠いている場合、企業ビジネスは失敗する可能性が高いとしています。BPRを進める上で、3C分析の観点から自社の業務プロセスの強みや弱みを理解することで、効果的な企業改革を進めることができます。
SWOT分析
SWOT分析とは、市場における自社の競争力を正確に把握する分析手法です。自社のビジネスをStrengths(強み)、Weaknesses(弱み)、Opportunities(機会)、Threads(脅威)の4項目に分けて評価し、4項目の頭文字を取ってSWOT(スウォット)と呼ばれています。SWOT分析では、潜在的なリスクや利益の機会を特定し、ビジネスを良い方向に導くことが可能です。そのため企業評価に欠かせない必須ツールとする人も多いようです。 分析結果は簡単に参照可能で、従業員単位で業務上の改善を促すことができます。 SWOT分析を行うことで、組織内外の要因を総合的に評価し、BPRの方向性を最適化させることができます。
PEST分析
PEST分析とは、ビジネスを取り巻く外的要因を政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の4つの視点から分析する手法です。1960年代に登場した理論ですが、今日もユニクロなどの大企業がPEST分析を活用していることで有名です。 PEST分析は、4P分析、3C分析、SWOT分析と同じく、戦略策定の初期段階で用いられるフレームワークです。なかでもPEST分析は、外部環境の変化が大きい状況下では最適の手法と言えるでしょう。 BPRを成功させる上で、PEST分析を通じて外部環境の変動を考慮に入れ、より潜在的リスクやビジネス機会を可視化することが重要となります。PEST分析を取り入れることで、BPRをスムーズに進めることができるでしょう。
シックスシグマ
BPRは業務プロセスの劇的な改革を目的とする一方、シックスシグマは品質管理のフレームワークとして、製品やサービスの不良率を低下させ、顧客満足度の向上を目指します。統計学でばらつきを示す「σ(シグマ)」に由来するシックスシグマは、業務プロセスの各段階での変動やばらつきを最小限に抑えるためのフレームワークです。BPRの初期段階で業務プロセスを再設計した後、シックスシグマの手法を取り入れ、各業務プロセスの最適化を進めるのが一般的です。 言い換えると、BPRは改革のスタートラインとなり、シックスシグマはその改革を「持続的に最適化する」ためのフレームワークとなります。
BPRの進め方例|7ステップで解説
BPR成功の鍵は計画的なアプローチにあります。ここではBPRの進め方例を7ステップで解説します。しっかりと読んで、ご自身のBRP計画に当てはめて考えてみましょう。
- 目標の明確化: BPRは、明確な目標を立てるところから始まります。これは、企業がBPRで達成したい業務改革を理解する基盤となります。配送時間の短縮や生産性の向上などの具体的な成果を定義することで、初めて目標に到達するための業務プロセスを設計することができます。
- 現状の分析: BPR進め方の鍵は、現状の業務プロセスを詳細に分析することです。これにより業務のボトムネックや無駄な業務ステップを特定できます。BPR事例を参考に、他の企業がどのようなアプローチで問題を解決したのかを研究するのも有益です。
- ギャップ分析: BPRのフレームワークとして、KPI(主要業績評価指標)を使用したギャップ分析があります。現状と目標とのギャップを明確にし、どのようにギャップを埋めるか、具体的な戦略を策定します。
- 業務プロセスの再設計: 現状分析とギャップ分析をもとに、業務プロセスの再設計を行います。BPR成功事例を参考にしつつ、最適化された業務プロセスの設計が求められます。
- 新たな業務プロセスの仮説と検証: 新たな業務プロセスの提案は、実際の業務で適用する前に、仮説として検証するステップが不可欠です。このステップは、BPRコンサルの専門家を招聘することが推奨されます。
- 新たな業務プロセスの実施: 仮説検証を経て、新たな業務プロセスを実際の業務に適用する段階に入ります。BPRツールの導入もこのステップで実施する場合が多いです。
- 結果の評価とフィードバック: BPRの実施後、得られた成果をKPIで評価し、改善点を洗い出します。初期段階では問題点や改善点が見えてくることもあるため、適宜アプローチを変更する柔軟な姿勢が求められます。
BPRは目標設定、適切な分析、事後評価、フィードバックのサイクルを良い方向に回すことで、持続的な成功を期待できます。先述したBPRと業務改善、BPRとBPO、BPRとDXの違いを理解し、BPRのフレームワークを適材適所で取り入れ、活用することがポイントです
BPRのメリット・デメリット
BPRでは単に業務の効率化やコスト削減だけではなく、顧客満足度の向上や競争力の強化を目的としています。しかしながら、全ての企業がBPRを導入すれば良いわけではありません。 BPRは企業に多くの利点をもたらす一方で、様々な課題も存在します。ここではBPRのメリット・デメリットについて詳細を解説します。
メリット
- ビジネスパフォーマンス向上
- コスト削減と競争力強化
- 顧客サービスの向上
- 組織の柔軟性の強化
- 業務プロセスの効率化
デメリット
- コストがかかる
- 組織内の混乱や抵抗を招きやすい
- 難易度が高い
- ネガティブな結果をもたらす場合もある
BPRのメリット
BPRを実施するメリットは、以下の通りです。
- ビジネスパフォーマンス向上:BPRでは、企業・自治体のパフォーマンス向上を見込めます。他社のBPR成功事例を見ると、業務プロセスの再設計により、生産性が大幅にアップしたケースが多数あります。
- コスト削減と競争力強化:BPRを進めることで、業務上の無駄なプロセスやタスクを排除し、コストを削減することができます。これは企業の競争力向上に直結します。
- 顧客体験の向上:BPRのを通じて、顧客の要望やニーズに迅速に応えるためのフレームワークを構築できます。これは、顧客ロイヤルティの向上や新規顧客の獲得に役立ちます。
- 組織の柔軟性の強化:BPRにより、刻々と変化する市場環境や顧客ニーズに対応できる柔軟性が身につきます。
- 業務プロセスの効率化:BPRによって最適化された業務プロセスは、業務の簡素化と効率化を実現します。
BPRのデメリット
BPRを実施するデメリットは、以下の通りです。
- コストがかかる:BPR導入には多大な時間、人的リソース、資金コストを要します。とりわけBPRコンサルやBPRシステムを導入する場合、初期の投資コストが大きくなります。
- 組織内の混乱や抵抗を招きやすい:従業員が現在の業務フローに慣れている中でBRP(業務改革)を提案すると、混乱や抵抗が生まれる場合があります。
- 難易度が高い:BPRは組織全体の変革を目指すため、管理と実施を継続するのは難易度が高いというデメリットがあります。BPRコンサルティング専門家の支援なしには、成功は難しいとされています。
- ネガティブな結果をもたらす場合もある:BPRによって新しい業務プロセスやシステムを導入すると、一時的に業務の複雑さが増すケースもあります。BPRはすべてがポジティブな結果をもたらすわけではなく、予期せぬ問題が発生することも多々あります。
BPRの成功事例3選
ここではBPRの成功事例について、日本企業に絞って紹介します。自社でBPRを計画する際のヒントとなりますので、最後までしっかりと読み進めて下さい。
BPR成功事例その1:日立製作所
日立製作所は、働き方改革の取り組みとして、自社で生み出した「Exアプローチ」を導入しています。Exアプローチは、顧客が最終的に求めるユーザー経験の価値を理解するところから出発し、BPRを進める際に顧客との共同作業を重視するアプローチ手法です。共同作業のプロセスにおいて、従業員の日常の業務フローを可視化することに成功し、残業時間の短縮化、コミュニケーションのコストが減少するといった成果を上げています。
BPR成功事例その2:ブリヂストン
ブリヂストンは世界シェアNo.1のタイヤ・ゴムメーカーとして有名です。しかしBPRを進めていく中で、タイヤ開発に携わる設計者が日常業務に追われ、設計業務にリソースを使えていないという問題が浮き彫りとなりました。そこで、ブリジストンではBPOによる一部業務のアウトソーシング化を実施。具体的にはドキュメントの集約、情報整理、業務分解、マニュアル整備などを外注化しました。結果として設計者は年間3万8000時間を企画・開発に注力し、業務を大幅に効率化させることに成功しました。
BPR成功事例その3:LIXIL
住宅設備業界大手LIXILは長年、高品質な製品を供給してきました。2010年代初めにグローバル展開を目指し、多くの海外企業を次々と買収。しかし海外展開を進めるなかで、異なる国々、文化、経済基盤を持つ子会社間の経理業務の統合に問題を抱えるように。LIXILではこの問題に対応すべく、BPRによる業務プロセスの再構築を図りました。具体的には2017年から2年半をかけて本社直轄の新組織を立ち上げ、9カ国27拠点に分散していた経理業務を3つの「シェアードサービスセンター」に集約。経理業務の最適化を実現するだけでなく、 AIやロボティクス技術を駆使した業務効率化も達成しました。LIXILのBPR成功事例は、他の多国籍企業にとっても参考となるでしょう。
BPRのよくある質問(Q&A)
BPRはどの分野の企業や業界に適していますか?
BPRの取り組みは、どれぐらいの期間が必要ですか?
BPRを成功させるために最も重要な要素は何ですか?
BPRと業務改善の主な違いは何ですか?
BPR失敗の原因としてよく挙げられるものは何ですか?
参考文献
- Business Process Reengineering (BPR) Definition
- Is it Time to Overhaul Your Processes?
- 日立のデザインシンキング:Exアプローチ
- 株式会社ブリヂストン導入事例(トランスコスモス)
- 組織の簡素化、業務効率化、コーポレート・ガバナンス強化に向け、組織変革を加速|LIXIL
- マイケル・ハマー&ジェイムズ・チャンピー (1993)『リエンジニアリング革命』日経BPマーケティング
まとめ
BPRは、企業や自治体における業務プロセスの根本的な再構築を行います。本記事ではBPRの基本概念、 BPRと業務改善・BPO・DXの違い、BPRの主要フレームワーク、具体的なBPRの進め方、メリット・デメリット、実際の成功事例などについて詳しく解説してきました。BPRの取り組みは、入念な準備と計画、組織全体の協力とコミットメントが不可欠です。高いコストがかかる一方、成功した場合は劇的な改革と成果をもたらします。
日々アップデートされる最新情報や新しいアプローチ手法、他社のBPR成功事例の詳細な分析結果を取り入れることが、BPRを成功させる鍵となります。ご自身でBPRを進める際は、本記事を読み返しながら計画立案を進めることをオススメします。