起業の準備をしている若き経営者の方なら一度は直面する問題として業務の外部委託でしょう。自分の事業を成長させるためには全てを一括で担当することは難しいです。そこで一部の業務内容を外部の会社に委託する機会も増えてきます。外部委託の意味として最近では別の言葉で“アウトソーシング”と言いますが、このアウトソーシングが今経営者や事業家の間で重要視されています。
アウトソーシングは巧みに利用できれば業務とコストの効率がをすることができ、起業資金を効果的に運用することができます。この記事ではアウトソーシングとは何かを解説し、その意味や派遣との違い、『アウトソーシングは危ない』と呼ばれる噂の真偽について検証し、一挙に解説していきます。
アウトソーシングとは? Outsourcing(アウトソーシング)の意味
アウトソーシングとは、英語で“Outsourcing”と書き、日本語で『業務委託』の意味です。アウトソーシングのそもそもの意味とは、“Out”が『外』で“Sourcing”『供給する』ということですので、『外に仕事を供給する』という意味から、アウトソーシングとは業務委託という意味に転じています。
従来はアウトソーシング、もしくは業務委託というと専門的な仕事をその業界のプロの人に依頼してやってもらうという形が一般的でした。例えば裁判などで弁護士を雇うことも業務委託のひとつですし、プロスポーツ選手がチームの移籍交渉のために代理人を立てるのもアウトソーシングの一種です。
しかし、社会が高度化するにつれて企業の規模が大きくなると業務も複雑化し、全ての仕事を一社で担うことは徐々に難しくなってきました。そこでごく限定的な仕事だけ外部の人に委託したり、もしくは一部の業務全体を外部にアウトソーシングするということが増えてきているのが現状です。
アウトソーシングが増えている要因
これまで以上にアウトソーシングの需要が増えている要因として、ビジネスの多様化が挙げられます。パソコンとインターネットの普及により業務が効率化されると、一社の事業内容が拡大し、複雑化する傾向にあります。昔は『豆腐屋は豆腐だけを作ればよい』という時代もありましたが、最近では個人事業主でも一人で資材調達から製造、販売、会計、そしてLINEで集客をする努力で売り上げを伸ばす…など担当する業務が多様化しています。
このように大企業に限らず中小零細企業でも多角化経営が当たり前となってきている昨今で、事業主だけではまかないきれない業務を外部のプロにアウトソーシングしたいというニーズが高まりました。そのため、個人事業主の例で言えば広告・宣伝活動をSNSマーケティングのプロに委託することで、その分の時間をメインである業務の方に集中して費やすことができます。
また、少子高齢化によって新卒の就労人口が減少している一方で退職者が増えてきていることが問題になっています。一定のクオリティを備えた労働力を確保することが難しくなっている現状で、経験のあるプロに業務をアウトソースすることも経営的に理にかなった選択となっていることがアウトソーシングが増えている主な要因とされています。
アウトソーシングと派遣の違い
アウトソーシングに関してよくある質問が、“派遣社員”とどう違うのかということです。昨今では、業務委託の人も正社員や派遣社員の人たちと同じ職場で仕事をするということが多いことから、アウトソーシングと派遣が混同されがちですが、この両者には明確な違いがあります。
アウトソーシングと派遣の違い:人材派遣とは
人材派遣とは、人材派遣会社から人材を手配してもらう形のことで、企業と人材派遣会社の間で『派遣契約』が交わされます。人材派遣会社に登録している社員や労働者は人材派遣会社の指示で企業に派遣され、業務については派遣先の部署の社員が指示や指導を出すことができます。
例えばホスピタリティ業界に特化した派遣で言えば、派遣されたホテリエの人はクライアントである派遣先のホテルや旅館の従業員から指示を受けて働くことになります。
人材派遣はこれまで多くの企業にとって貴重かつ、数を柔軟に増やしたり減らしたりできるため便利な労働力でしたが、派遣法の改正により派遣社員が同一事業所の同一部署で就業できるのは最大3年までという規定ができました。『派遣労働者の雇い止め』という問題解決のため、3年を超える場合事業所はその派遣労働者を直接雇用に切り替えることになるのですが、実際には直接雇用に切り替わる頻度は高いとは言えず、そのまま派遣契約が終了することが多いとされています。
アウトソーシングと派遣の違い:アウトソーシングとは
アウトソーシングと人材派遣の大きな違いは雇用関係です。アウトソーシングの場合、企業とアウトソーシング会社の間には派遣契約ではなく『請負契約』が交わされます。これは業務を請け負うことが契約として交わされることで、企業と労働者の間には就労関係や法的な契約関係は存在していません。
アウトソーシング会社は業務遂行を請負い、その業務を自社と雇用関係のある労働者に指示を出して行わせます。従業員が完遂させた業務はアウトソーシング会社を通して、クライアントである企業に納品されることになります。
派遣との違いは、企業が直接労働者に指示を出したり指揮命令をすることができない点にあります。アウトソーシング契約は業務に関しての取り決めのため、労働者がどのように仕事をするかなどを雇用関係のない企業が口出しをすることは法律違反となります。
また、アウトソーシングの派遣との違いとしては“3年ルール”がないため、3年以上を経過してもその労働者を企業が直接雇用しなければならないという決まりはありません。そのため、企業とアウトソーシング企業が合意すれば何年でも契約し続けることができます。
アウトソーシングのメリット・デメリット
アウトソーシングという言葉や考えが浸透してきましたが、そのメリットとデメリットをきちんと理解しておかないとセールスイネーブルメントの効果があるどころか経営が効率化できない可能性もあります。以下ではアウトソーシングのメリットとデメリットを紹介しますのでしっかりと確認してください。
アウトソーシングのメリット1:人件費をおさえられる
アウトソーシングを導入する意味として、コスト削減を目的としている場合が多いでしょう。ひとつの会社で働く従業員を全員正社員雇用すると賃金だけでなく、年金や医療保険などの社会保障費がかかります。これは特に会社設立費用が限られているスタートアップの会社などにとって大きな負担となります。
アウトソーシングであれば報酬を状況に応じて変えたり、委託をストップしたりすることもできますし、社会保障費などを払う必要もありません。そのため、柔軟に労働力を調節できるのがアウトソーシングの長所です。
アウトソーシングのメリット2:人材マネジメントを簡素化できる
人を雇うとは金銭面だけでなくマネジメントのうえでも大きな負担となります。特に正社員を雇うとその人を維持するためにキャリアパスを提供したり、スキルアップのための資格を取らせたりと色々な投資が必要となります。しかしアウトソーシングであれば自社の社員ではないため、柔軟に配置して業務を委託すれだけでよいことになります。
ワークフォースマネジメントが簡素化されるため、会社の生産性を上げるためにも効率をあげることができます。
アウトソーシングのメリット3:リソースを本業に集中できる
起業の成功例を見るとわかるように、限られた資本を特定の分野に選択し、集中してリソースを投じることが成功への近道となります。例えばEC事業を立ち上げた場合、まずはそのサービス開発に集中したいところですが、従業員に給与や交通費を払ったりなども現実としてやらなければなりません。そこで経理業務をアウトソーシングすれば面倒な作業は外部に委託することができ、自社の従業員の時間と労力をサービス開発に集中させることができます。
アウトソーシングのデメリット1:コスト削減にならない可能性も
反対にアウトソーシングのデメリットはコスト削減にならない可能性もあることです。これはメリットと矛盾しているようですが、外部に委託する場合単価が割高となる場合があるからです。例えばブランド戦略のためにインフルエンサーマーケティングの会社に業務を委託する場合、その単価は当然自社でやるよりも高くなりますが、その代わり収益が大きくなるためコストパフォーマンスはよくなります。
しかし、業種によってはアウトソーシングし続ける方が費用対効果が低いこともあり、アウトソーシングへの移行によって初期費用が大きな初期費用がかかるとこのコストを回収することができないこともあります。
アウトソーシングのデメリット2:コミュニケーションが円滑にいかない可能性
外部の人に業務を委託することなので、当然コミュニケーションの齟齬はリスクとしてありえます。前述のように、アウトソーシングは人材派遣とは異なり、クライアントから労働者に対して指示や命令を出すことができないため、期待していたものとは異なる結果が返ってくるリスクがあります。
外部の人を自社のワークフローに組み入れ、そのなかで業務を回していなければいけない大変さもあるため、アウトソーシングの相手によっては時間とコストの節約にならない場合があります。
アウトソーシングのデメリット3:自社のノウハウや情報が外部に流出するリスク
アウトソーシングで外部の人に依頼して働いてもらうとどうしても情報流出のリスクが起こります。アクセス権を制限するなど対策も可能ですが、経理や給与計算のアウトソーシングになると限定的にすることは難しいです。
また、委託した会社の従業員が優秀だと便利な反面、ジョブローテーションでそのノウハウを自社の従業員に経験させることができないため、社員の経験値を上げられない可能性も出てきます。
アウトソーシングのメリット:
- コスト削減
- 労働力を柔軟に調節できる
- 人材マネジメントを簡素化できる
- リソースを集中できる
アウトソーシングのデメリット:
- コスト削減にならない場合もある
- コミュニケーションが難しい可能性
- ノウハウや情報が流出するリスク
アウトソーシングは危ない?
業務委託は人材を確保するうえで企業にとって便利な選択肢ですが、アウトソーシングの使い方を間違えると危ない結果にもなります。
上述の通り、人材派遣の場合は派遣先の企業の人が派遣労働者に対して指示や命令を出すことが認められています。ただ3年ルールがあるため、同一の職場で長く働くと直接雇用に切り替えなければならず、クライアントである企業としては直接雇用にするとコスト増大を理由に避けたいことがあります。
そこで実際は派遣なのだけれども業務委託という形で労働者を派遣してもらい、派遣先の企業で指示や命令を出して働かせるという事態が発生しています。アウトソーシングの場合は命令や指示を派遣先企業が出すことは法律違反なのですが、このように実態は派遣なのに業務委託という形式をとって働かせると労働基準監督署から『偽装請負』と指摘される可能性があります。
偽装請負は労働者派遣法および職業安定法によって禁止されており、これらの法律違反の罰則は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」が科されます。また、それ以上に偽装請負は厚生労働大臣による指導や助言、改善命令、ひいては公表される可能性があり、会社の評判悪化に直結してしまいますので注意が必要です。
偽装請負のリスクがあることから、業務の仕方を間違えるとアウトソーシングも危ない結果になってしまいますので注意しましょう。
経理アウトソーシング・給与明細作成も業務委託
業務委託ができる分野は様々ですが、大企業でよく行われているのが経理部門の分社化です。経理とは会社の財務を担当する重要な部署ですが、この部署全体を別子会社にしてそこから経理スタッフをアウトソーシングするというやり方をすることがあります。
経理や給与明細作成の業務をアウトソーシングするメリットとしては、企業自体が採用や育成、引き継ぎに関する負担を軽減させることができる点が挙げられます。特に経理は簿記の資格などが必要になり、専門職の色が強い部署になるため詳しい人が一貫して担当する方が効率的にもなります。また、営業職などとは異なり裏方の仕事ですのでカスタマーエクスペリエンスに影響しないことからアウトソーシングしやすい分野でもあります。
株式会社アウトソーシングとは
業務委託の意味でのアウトソーシングを調べると株式会社『アウトソーシング』を見かけることがあります。これは主に製造業をメインとした人材派遣の企業で、“コストからコスト・プラス・クオリティへ”をビジョンに労働格差をなくすことを掲げています。
主要取引先は三菱自動車やトヨタ自動車、日産など主に車メーカーが多いようです。
株式会社アウトソーシングの株価
株式会社としてのアウトソーシングの株価は本稿執筆時点でひと株1122円となっています。過去にはアウトソーシングの株価が2000円台をつけたことから現在は比較的割安となっており、バリュー株ということができるでしょう。
株式会社アウトソーシングはやめとけ? 求人からわかること
『アウトソーシングはやめとけ』という口コミが見られますが、これは同社が主に製造業に特化した人材派遣企業であることが由来しているでしょう。製造業を志望していない派遣労働者の方にとってはミスマッチとなるため『アウトソーシングはやめとけばよかった』という結果になります。
株式会社アウトソーシングの求人を見ると製造スタッフの募集から化学系技術職、エンジニア採用、総合職・製造エキスパート職など幅広い求人募集があります。従来は製造スタッフが主でしたが、最近では幅広い職種の求人もアウトソーシング社で見られることから、多様な人材が求められていることがわかります。そのため、『アウトソーシングはやめとけ』と決めてしまう前に、まずは求人を見て自分のスキルにあった職種かどうかなどを見極めると良いでしょう。
まとめ
この記事ではアウトソーシング(業務委託)について解説してきました。アウトソーシングと派遣には明確な違いがあり、これを見誤ると法律違反になりかねません。アウトソーシングを検討している場合は危ないことにならないためにもしっかりと法的要件を確認した上で業務委託をするようにしましょう。
また、製造業に特化した人材派遣企業の株式会社アウトソーシングも業界では名の知られた企業です。海外事業も好調なことからアウトソーシングの株価も上向きとされており、幅広い種類の求人があります。『アウトソーシングはやめとけ』と考えるのはミスマッチが原因と考えられます。
効率的に起業するには時間とコストを有効活用する必要がありますので、アウトソーシングを検討されている方はこの記事を参考に戦略的に業務委託をしてみるようにしてください。