情報が発達した現代ではマーケティングの力だけで大きなシェアを獲得するのはますます難しくなっています。消費者は同じ製品をインターネット上で安く買ったり、似た製品を簡単に比較することができるため、性能が良いからといって自社の製品が必ずしもマーケットで優位性があるとは限りません。

そこで鍵を握るのが顧客ロイヤリティ(Customer Loyalty)です。顧客ロイヤリティが高いほど固定客が定着することができるため、ブランドや企業にとっては重要な要素となります。

この記事では顧客ロイヤリティを高める上で重要な点を解説しつつ、顧客ロイヤリティの有効な指標や成功事例などを一挙に紹介していきます。スタートアップのビジネスを考えている方は顧客ロイヤリティをどうやって獲得できるかが成功の鍵となりますので、起業の準備のためにもこちらの記事を活用しましょう。

顧客ロイヤリティの意味とは?

顧客ロイヤリティとは、顧客がその会社の製品やサービスの購入をリピートする意欲と言い換えることができます。ロイヤリティ(Loyalty)とは日本語に訳すと“忠誠心”という意味ですが、顧客があるブランドや企業を積極的に選んでいると顧客ロイヤリティが高いといえます。

ブランドマネジメントにおいても顧客ロイヤリティは非常に重要な要素です。というのも、ブランドの愛好家ほど様々なブランドから買い物をするよりも決まったブランドから商品の購入をする傾向にあるからです。リピート率の高い客層が定着できると新しい商品の販売でも売り上げが安定して見込まれるため、市場の競争原理から離れて独自に優位な地位を市場で築くことができます。

顧客ロイヤリティが大事な理由

上記の通り、顧客ロイヤリティが大事な理由としてはリピート率が高い固定層を獲得することにありますが、コスト面でも効率的だからです。というのも新規の顧客を獲得するには時間とコストがかかり、そのうえ一回きりの顧客ばかりが増えるとさらにコスト面でも負担が大きくなります。例えばインフルエンサーマーケティングによって自社のブランドを紹介すると新しい客層は獲得できますが、その人たちが次も購入しないと継続的な売り上げ向上が見込めません。

起業の失敗でもよく見られる原因のひとつにリピーターを獲得できなかったことが挙げられます。自社の製品・サービスが良くても顧客ロイヤリティが低いことで継続的に収益を上げられないとビジネスが持続できないことから、顧客ロイヤリティをどれだけ獲得できるかがビジネス生存率に大きく影響してきます。

顧客満足と顧客ロイヤリティ- 意味の違いは?

ここでよくある質問が「顧客ロイヤリティと顧客満足度は同じ?」というものです。

顧客満足は英語で“Customer Satisfaction”(CS)ですが、「顧客の期待が満たされている状態」として定義されるのが一般的です。一方、顧客ロイヤリティの意味としては「顧客がある特定のブランドや企業の製品・サービスにどれだけ愛着や信頼、リピート意欲を感じているか」とされています。

両者とも満足している状態であることは同じですが、顧客満足は「この製品、良かったな」と感じているだけの状態だとすれば、顧客ロイヤリティは「次の製品も絶対このブランドじゃないと買わない」と強く購入意欲を持っている状態だと言えるでしょう。そのため顧客満足も顧客ロイヤリティも企業・ブランドと顧客の関係性をマネジメントするという意味ではCRM(顧客管理)の点では同じ考え方をしているともいえます。

顧客ロイヤリティの改善で期待できるメリット

起業するには高い顧客ロイヤリティが得られるビジネスを考える方が優位性が高いですが、必ずしも最初からそうである必要はありません。多くのビジネスは試行錯誤を重ねて顧客ロイヤリティを向上させています。顧客ロイヤリティをあげる成功事例については本記事の後半で紹介しますので最後までしっかり呼んでください。

1. リピート客比率の向上

顧客ロイヤリティが高まるとリピートも促進され、全体で顧客のリピート率が向上できます。

2. 解約・キャンセル率の低下

これは主にサービス業に見られますが、顧客ロイヤリティが上がると固定客が定着するため、解約されたりキャンセルされたりする確率が低下します。例えばサブスクリプションの事業モデルだった場合、そのサービスに対する顧客ロイヤリティが高いと安定して毎月サブスクされることができますが、逆に顧客ロイヤリティが低いと解約されてしまい継続した収益が得られなくなってしまいます。

3. 他の顧客獲得につながる

顧客ロイヤリティの高い人はその企業やブランドへの愛着や思い入れが強いため、その製品やサービスの内容に精通していることが多いです。そのような人たちがブランドアンバサダーとして振る舞ってくれるため、徐々に他の人にも口コミなどで広がっていき、一緒に買い物に来るなど他の顧客描くときに繋がりやすくなります。

4. 単価が上げられる

顧客ロイヤリティが高いということは、利用者や消費者がそのブランド・企業を選んでいる理由は値段以外の理由があることになります。例えば自動車といえばトヨタやホンダなどが有名メーカーにありますが、マツダは、販売台数自体は減少しているものの高い人気を誇っています。というのも、マツダを購入する人は価格や機能性で選ぶよりも、車のデザインやスポーツカーのような外装、同社のストーリーに惚れている人が多いからです。そのためマツダは手頃な価格で勝負をする他者とは異なり、高い値段設定をすることができます。

高い顧客ロイヤリティを確保できると単価を上げても顧客の流出が起きにくいため、セールスイネーブルメントが効果的になります。

顧客ロイヤリティの指標

顧客ロイヤリティの重要性は理解できたと思いますが、この度合いを測定する方法がなければコンテンツマーケティングなどに有効に反映させることができません。以下では顧客ロイヤリティを測定する有効な指標を紹介します。

NPS(ネットプロモータースコア)

ネットプロモータースコアの顧客ロイヤリティ指標

NPS(ネットプロモータースコア)とは顧客の満足度と共に他者推奨をするかどうかの指標で、主にアンケートなどで集計されます。指数は0から10までの11段階で、回答者の顧客ロイヤリティの度合いを知ることができます。

NRS(ネットリピータースコア)

ネットリピータースコアの顧客ロイヤリティ指標

NRSは継続的な利用・購入意欲を指数化したものです。1年後もサービスや商品の利用を継続するかどうかなどの質問に対して5段階評価で点数にします。NPSが高く、NRSも高い場合は顧客ロイヤリティの高いリピーターといえますが、NRSは高いけどもNPSが低いという人はブランドに魅力を覚えていても実際に買うかどうかは分からないと考えることができます。

CES(カスタマーエフォートスコア)

カスタマーエフォートスコアの顧客ロイヤリティ指標

CES(Customer Effort Score)とは“顧客努力スコア”と直訳できます。これは顧客がサービスや商品を利用するために要した努力(負荷)を数値化したものです。

例えばあるサービスを利用しようと思ったのに、そこから手続きが複雑だったり、購入窓口で長時間待たされたりなどを経験した場合、CESの数値は高くなり、顧客はつぎもリピートしない確率が高くなります。

そのため、CESの数値は低い方が望ましいとされており、この結果によって企業や事業者はワークフローを見直すことができます。

LTV(ライフタイムバリュー)

LTV(Life Time Value)とは“顧客生涯価値”と訳され、一人の顧客が生涯を通して企業やブランドにもたらす価値を示した指標です。以下の複数の方法で数値が求められます。

  • LTV=平均購買単価 × 収益率 × 購買頻度 × 継続購買期間
  • LTV=(平均購買単価 × 収益率 × 購買頻度 × 継続購買期間) ー (新規顧客1人あたりの獲得コスト+既存顧客1人あたりの維持コスト)
  • LTV=顧客の年間取引額 × 収益率 × 顧客の継続年数

顧客ロイヤリティの成功事例

顧客ロイヤリティは企業努力で向上させることができます。一般的には顧客ロイヤリティプログラムと呼ばれていますが、プログラムやキャンペーンを通して利用者にインセンティブを与え、顧客ロイヤリティをあげようとする試みです。

以下では顧客ロイヤリティの成功事例をいくつか紹介します。

顧客ロイヤリティの成功事例:スターバックス

スターバックスの顧客ロイヤリティプログラム

スターバックスではそれまでシンプルなポイントシステムを導入していましたが、顧客ロイヤリティを向上させるためゲームの要素を導入したことで話題になりました。

それまで購入額に関係なくどの顧客にも一回の購入ごとに1ポイントを付与していたものを、1ドルに対して2つのスターを獲得できる仕組みに変えました。これはスターバックスリワードと呼ばれていますが、スターを集めることでコーヒー豆に交換できるeTicketを獲得できたり、誕生月特典がもらえたり、エスプレッソショットの追加や同社のオリジナルグッズとの交換など特典も充実化しました。

値段によって獲得できるスターが増えるためこれがインセンティブとなり、「コーヒーを飲むならスタバにしよう」という考えが働くことによって同社の顧客ロイヤリティを向上させることができました。

顧客ロイヤリティの成功事例:コストコ

コストコのガソリンスタンド

コストコはアメリカの会員制倉庫式総合スーパーで、買い物をするには会員資格と年会費が必要です。低価格と高品質が日本でも人気になっており、年会費が発生ことから会員資格を入手した人は積極的にコストコで買い物をするモチベーションを与えることができます。ただ、コストコの顧客ロイヤリティを向上させた事例は他にもあります。

コストコではガソリンスタンドが併設されていますが、低価格でガソリンを入れられるのが特徴です。ガソリンは同社にとって大きな収益になっていませんが、赤字でも低価格で顧客に提供することで買い物でより多く消費をしてくれることになります。また、ガソリンを入れるついでに買い物も済ませたい、というニーズに的確に答えることでユーザーのリピート率が上がるため、コストコは継続的に会員を増やすことに成功しています。

顧客ロイヤリティ まとめ

この記事ではブランドマネジメントにおいて重要な顧客ロイヤリティについて、そのメリットと顧客ロイヤリティの有効な指標、そして代表的な顧客ロイヤリティの成功事例を一挙紹介してきました。

最近ではSNSマーケティングなどが盛んになっていますが、これらは新規の顧客を獲得するために有効な反面、リピーターを獲得するには別途で企業努力が必要となります。収益の安定化と継続的な顧客増加を狙うためにもリピーターは非常に重要で、リピート率が高いということは顧客ロイヤリティが高いということに繋がります。

起業の成功例を見ても顧客ロイヤリティが高いスタートアップの会社ほど企業生存率が高いです。起業を考えている方や準備している方は本記事を参考に顧客ロイヤリティの向上に取り組むようにすると成功できるチャンスが上がるかもしれません。